家庭用好調の裏で「工業用ミシン」は苦戦。コロナ禍でアパレルや百貨店不況が打撃に
工業用、非服飾手探り
家庭用ミシンの好調の一方で、工業用ミシンは苦戦を強いられている。新型コロナウイルス感染症が低迷するアパレル業界の景況をさらに押し下げた。百貨店などの休業や営業時間短縮もこの傾向に拍車をかける。
緊急事態宣言下の外出自粛やテレワークの常態化で、自宅で過ごす時間が増え、スーツなどを着る機会が減った。これも縫製工場の稼働率を落とす要因になる。あるミシンメーカー首脳は「コロナ禍が終わっても需要は回復しないのでは」と危惧する。
世界的な景気低迷でミシン関連の投資意欲も低調気味だ。ブラザー工業はベトナムやインド、バングラデシュなどのアパレル縫製工場での価格競争に苦悩する。現地の低価格志向が強く、収益改善は長期の課題となる。
このような状況に対して、各社には新たな需要の掘り起こしが求められている。環縫いミシンを専業とするペガサスミシン製造は、自動車のカーシートなど内装向けにステッチ用ミシンの研究開発を進める。非アパレル用途に対象を広げ、可能性を探る。
JUKIも自動車のシートや家具、スポーツシューズの分野を伸ばす意向だ。さらにミシン単体を販売するという戦略から縫製工場内全体のハンドリングに事業領域を拡大。ラインのデザインから裁断、縫う工程、検品、箱詰めまでを一貫して手がける方針を示す。
事業領域の拡大に向けて期待できるのは「縫い」の技術の進化だ。TISM(愛知県春日井市)は、主力の工業用刺しゅう機の技術を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の中間基材(プリフォーム)成形に応用する。「TFP」と呼ぶ工法の専用機「TCWM」を2009年に製品化した。
TFPは服飾の刺しゅうのように炭素繊維を母材に縫い付け、後工程でプラスチックで包み部品とする。炭素繊維の歩留まりが約90%と高く、CFRPの質量当たりで2倍という高剛性(比剛性)が得られるのが特徴だ。成形時間を半減した専用機「TCWM―T02」も開発済みで本格発売の準備を進める。
日本でも新型コロナのワクチン接種が始まり、世界経済も回復の予兆が出ている。これまで抑えていた購買意欲が解き放たれ、売上高が大幅に向上する可能性もある。まだら模様のミシン業界だが、家庭用と工業用それぞれで追い風が吹く日が来るかもしれない。(川口拓洋、名古屋編集委員・村国哲也、大阪編集委員・林武志が担当しました)