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元統合幕僚長が語る、イージス艦衝突事故の教訓と企業の危機管理

河野克俊氏インタビュー
元統合幕僚長が語る、イージス艦衝突事故の教訓と企業の危機管理

イージス艦「あたご」(海上自衛隊公式サイトより)

―イージス艦「あたご」の衝突事件などを教訓に情報発信の一元化やトップの心得を強調しています。

「危機の際、司令塔の下に情報発信は一本化すべきだ。情報が正確に把握できない段階での拙速発信は避けなければならない。把握できない時点であれこれ情報発信すると、直後に訂正や取り消しとなり、最終的に国民の信頼を失う。自衛隊は情報を隠匿しているのではないかなど、何を言っても信用されなくなり、負のスパイラルに陥る」

―不祥事の会見が相次ぐ企業の危機管理にも言える話です。

「問題が起こった組織に共通しているのは、司令塔の人物がおらず、皆がてんでんばらばらに行動していること。危機管理体制は少数精鋭で行くべきだ。何か起きると、関係者全員を集めてひんぱんに会議をやる組織が多いが、本末転倒だ。人数が増えすぎて責任の所在がわからなくなり、コントロールも効かなくなる。組織は極力シンプルにし、縦割りを排するという菅義偉首相の姿勢はその意味で正しい」

―太平洋戦争でキスカ島撤収作戦を成功させた木村昌福中将を高く評価していますね。

「企業でもほかの組織でも、いろいろな人がリーダーの心得を持っていると思う。(上官の命令で部下が動く組織の)自衛隊はある意味、その極致だ。開戦に至る歴史もそうだが、何かこのままではいけないと皆が思っているのにそのままズルズルと進んで最悪の結果を招いてしまう事例はいろいろある。木村中将の偉い点はキスカ撤収を成功させる以前、作戦中止を一度決断している点だ。進軍ラッパを吹く号令は誰でもできる。だがそれでは、本当のリーダーとはいえない。重要なときにやめる決断、撤退の決断ができるのが真のリーダーだ。進む決断は簡単だが、引く決断は難しい。周囲から批判されようと、本当に必要と思ったら引く決断をすることはリーダーだけしかできない」

―現在は川崎重工業に勤めています。防衛予算が増える一方、国内防衛産業は撤退リスクや技能伝承問題が指摘されています。

「米国のような大国でさえ、航空機がロッキード・マーチンとボーイングの2社体制になるなどの合併・再編が進んだ。それだけ防衛装備は開発競争が激しく、カネがかかる産業だということ。大がかりな支援とバックアップが不可欠だ。戦前はその役割を海軍工廠などが担っていたが、今は民間企業がすべてを背負わなければならない。企業は先の見通しがないと、投資できない。防衛産業は国の根幹であり、何でも一般競争入札でやるのはどうか。防衛産業は特殊な技能が求められる職場であり、技能伝承の火を絶やさないためにも仕事がない期間も人を雇い続けなければならない。防衛産業を維持するためには随意契約的な要素も必要だと思う」

―中国の軍事行動が活発です。香港、台湾に続き尖閣諸島を狙うとの指摘もあります。

「防衛問題は大人の対応が必要と言う人がいる。ただ、その結果それで国の関係が良くなっているか。相手の発言に対し、間違っている点はその場ではっきり指摘しなければならない」(編集委員・嶋田歩)

河野克俊氏
河野克俊(かわの・かつとし)氏 川崎重工業顧問

77年(昭52)防衛大機械工学科卒、同年海上自衛隊入隊。海幕防衛部長を経て11年自衛艦隊司令官、12年海上幕僚長、14年統合幕僚長、19年4月退官後、川崎重工業顧問。北海道出身、66歳。

『統合幕僚長 我がリーダーの心得』(ワック 03・5226・7622)

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