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介護ロボットの開発トレンド、コロナ禍で生まれた変化

介護ロボットの開発トレンド、コロナ禍で生まれた変化

自宅で「HAL」を装着してトレーニングできる(サイバーダイン提供)

介護ロボットの開発トレンドに変化が生じている。高齢者の自立支援や慢性的な人手不足が続く従事者の負担軽減などを目的にしたこれまでの製品化の流れに対し、新型コロナウイルスの感染拡大を機に新たな形での対応が迫られるようになった。「新しい生活様式」に沿った幅広い場面での活用に向け、経済産業省や厚生労働省は新たな施策に踏み出している。一方で現場のニーズを反映した普及や改良には課題も浮かぶ。(取材=高田圭介)

日本の総人口が減少を続ける中、2020年9月時点の高齢化率は28・7%と過去最高を更新した。「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者に差しかかる「2025年問題」によって医療や介護などのさらなる負担増加も懸念されている。厚労省によると、20年9月時点での要介護認定者は約676万人に及ぶ。

介護を必要とする人が増える一方、業界は慢性的な人手不足に悩まされている。経産省は35年に68万人の介護職員が不足すると推計し、必要なサービスの確保には機器やITなどを活用した生産性や質の向上が必要と示している。

要介護者の介助や膨大な事務作業が従事者に負荷を強いる一方、解決策の一つとしてロボット活用に対する期待が高まっている。経産省や厚労省は情報を感知したり、判断したり、動いたりする要素を持ち、高齢者の自立支援や従事者の負担軽減につながる機器を「介護ロボット」と定め、移乗や移動、見守り、入浴など6分野13項目を重点分野に位置付ける。市場を見渡すと、ベッドや車イスからの移乗を介助するアシストスーツや歩行支援カート、認知症患者向けセンサーなど多岐にわたる。

非接触型・家庭向けに脚光

新型コロナの感染拡大は介護現場に新たな課題を突きつけた。各地の施設でクラスター(感染者集団)が発生し、現場は重症化リスクが高い高齢者の感染を防ぐために神経をとがらせる一方で従事者にも感染の不安がつきまとう。

「3密」回避のため利用者の中には施設から在宅サービスへの切り替えの動きも進むが、利用者と従事者の接触によるリスクを意識せざるを得ない。感染予防とサービス水準の維持との間で介護の環境を保つ難しさが問われている。

社会全体で非接触や遠隔による新たな製品やサービスの開発が進む一方、介護ロボット分野では即座に応用が難しい事情も存在する。背景にはアレンジを進めるにしても現場での実証や検証を重ねる必要がある。

「技術シーズが軸となってきた」(経産省担当者)こともあって施設向けを軸とした製品化が進み、大きさや仕様、価格面など家庭向けに対応しづらい点も多い。別の経産省担当者は介護分野に限らずコロナ禍でニーズが高まるサービスロボット全体で「(実用化や導入につながる)『ロボットフレンドリー』な環境の構築が必要」と語る。

新たな課題を踏まえ、経産省は21年度から「ロボットなど介護・福祉用具開発プロジェクト」で非接触型機器の開発や改良の動きを支援する。

家庭向け製品の開発や施設向け製品の小型化や機能の簡素化などを通じ、幅広いシーンでの普及への環境整備も進める。安全性や効果評価などに関する標準化を図り、主要国で高齢化が進展する中で海外を含めた介護ロボット市場拡大も視野に入れる。

厚労省も開発中の製品に関する評価や効果検証、実証支援を進める窓口として「リビングラボ」を設けた。介護ロボットの導入や貸し出しなどに対応する相談窓口も全国11カ所で展開し、開発側とユーザーとのマッチングによるネットワーク構築を進めている。

高齢者の運動支援

トレンドに沿った製品も少しずつ出始めてきた。スマートロボティクス(東京都千代田区)は殺菌灯搭載の遠隔操作型ロボットを開発し、テムザック(福岡県宗像市)と高山商事(名古屋市中区)は介護施設向け巡回ロボットに除菌消臭液の噴霧機能を追加した。消毒作業の負荷軽減とともにウイルスの接触リスクを回避する効果をもたらしている。

コロナ禍で世代を問わず運動不足の傾向が高まる中、リハビリやレクリエーションでの活用に期待がかかる。サイバーダインはリハビリ用ロボットスーツの個人向けレンタルとともにトレーニングプログラムを提供し、高齢者の運動機能向上を後押しする。NECもコミュニケーションロボット「PaPeRo i(パペロアイ)」を活用し感染対策としての見守りサービスの実証を福井県坂井市で展開し、モニターを通じた体操動画の配信や離れて暮らす家族とのメッセージのやりとりなどの可能性を探った。

国内では新型コロナ感染の「第3波」到来により、高齢者の重症化リスクに対する不安が高まっている。従来から指摘されている価格面や機能面の課題だけでなく、感染症対策やQOL(生活の質)向上などよりマルチな対応をどう図るかも今後の開発トレンドでカギを握りそうだ。

日刊工業新聞2021年1月4日

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