就職、結婚、保険...AIの発達で自分が「最適可能なデータ」に。これからの仕事どう変わる?

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コロナ後については、いろいろなことが言われている。具体的に何がどう変わるのだろう。誰もが口を揃えるのは、デジタル化が進むということだ。別の言い方をすればAI化が進む。

AIが行うことは最適解を導き出すということである。一つの命題にたいして、最適な解をマッチングさせる。AIのアルゴリズムは0と1の二進法だから、それ以外のことはできない。デジカメできれいな写真を撮ることも、チェスで世界チャンピオンを打ち負かすことも、医療用アルゴリズムが膨大な検査データから正確な病名を診断することも、金融取引で売り買いの注文をナノ秒単位で出すことも、恋人や結婚相手をマッチングさせることも、みんな原理は同じである。AIの性能が良くなるとか進歩するというのは、最適解を導き出すまでの時間が短くなることであり、より多くのデータを参照できるようになることである。

それだけなら結構な話だが、問題はぼくたち自身が最適可能なデータになってしまうことだ。就職や結婚に際しても、銀行から融資を受けるときにも、各種の保険に加入するときにも、一人ひとりが最適可能なデータとして扱われる。そこに待ち受けているのは、これまで以上に過酷な適者生存の世界だろう。知能や病気リスクなど個人のゲノムデータに、学歴、犯罪歴、サークル活動やボランティア活動への参加の有無といった行動履歴が上書きされて、一種の個人スコアが作成される。これが最適可能なデータとして参照される。

仕事でも各企業、事業所、自営業者、作家、アーティストなどがすべて最適解として扱われる。つまり一つの仕事が発注されると、AIが世界中のデータを参照して最適解を導き出す。これが進むと、業種ごとに最適化した一社だけが生き残るという状況も考えられる。たとえばモノを売ることはアマゾンが独占するようになるかもしれない。

これから5年か10年のあいだに、AIによって働き方が大きく変わることは間違いない。人間のやってきた仕事の多くがAIに取って代わられる。AIのやれる仕事によって社会が再編されていく。当然、仕事を失う人も出てくるだろう。子どものころになりたかった仕事が、大人になったときにはなくなっていた、ということも起こってくるはずだ。

長くデザインの仕事をしてきた友だちがいる。彼は若いころにあこがれてこの業界に入った。しかし近い将来、グラフィカル・デザインのレイアウトという意味でのデザイナーの仕事はなくなるかもしれないと言う。写植屋の仕事がDTPに取って代わられたように。

すでにデザインのソフトウェアはAI化されており、たとえばポール・ランド風とかソール・バス風とか田中一光風とか、去年売れたレイアウトとか、必要なものを選んでオペレーターが文章と写真を入力し、「制作」というボタンをクリックすると、それなりのものができてしまうのだそうである。アートディレクターみたいな人がそれを見て、「今回はこれで行きましょう」みたいな感じでプレゼンテーションする。OKが出れば小さなところを修正して終わり。いわゆるデザイナーらしい仕事が介入する余地はない。

似たようなことが、今後はあらゆる場面で起こってくると考えられる。では、デザイナーになろうと思っている人はどうすればいいのだろう? デザインの意味を変えればいいと思う。これまでデザインはクライアント(供給者)の「どうやったら売れるのか」「どうしたら集客できるのか」という要望に応えるためのものだった。つまり販売を促進する仕事である。

これからは一人ひとりの小さな需要に応えることが、デザイナーの仕事になると思う。たとえば70歳を超えた高齢者に、時速120キロも130キロも出る車が必要だろうか。ぼくなら最高速度は60キロくらいでいいから、歩行者をはねそうになったときに自動的に停止する車とか、アクセルとブレーキを踏み間違わない車を購入したいと思う。87歳になるうちの母は、妹に勧められてスマホに替えたが、使いにくいといって元の携帯電話に戻した。つまり現在のスマートフォンは多くの高齢者にはオーバー・スペックなのである。

一つの製品を大量に作り、たくさんの人に売るという時代は終わりつつあるのかもしれない。これからは一人ひとりが本当に必要とするものをデザインする。それがデザイナーの仕事になるだろう。(作家・片山恭一)

片山恭一の公式サイト、セカチュー・ヴォイスはこちらから

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