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GAFAの“雑草戦略”、実は弱者向け?生命史に学ぶ生存戦略が面白い

『38億年の生命史に学ぶ生存戦略』著者、静岡大学教授・稲垣栄洋氏 
―ビジネスと生物の戦略に重なる部分が多く驚きました。

「生物に戦略はそぐわないと思うかも知れないが、激しい競争社会を勝ち抜いた生物は必ず戦略を持っている。私はビジネスの専門家ではないが、生き物の生存戦略をビジネスに関連づけて書いたのが本書だ。38億年の淘汰(とうた)の歴史の中で生き延びてきた生物には『答え』がある。それは人間が浅い知恵で考えるよりも確かな真実だ」

―ナンバーワンしか生き残れないのが自然界のおきてだと。

「自然界は生きるか死ぬかの世界で、人間社会とは比べものにならないほど厳しい。“銀メダル”では滅びてしまう。そのためすべての生き物は、『ナンバーワンになれるオンリーワンの場所』を持っている。それが生物学におけるニッチであり、生き物はほかの生物とニッチをずらしてすみ分け、できるだけ戦わないようにして生きてきた。企業も同じではないか」

―グーグルなどGAFAは“雑草戦略”を取っているのですね。

「彼らは失敗を恐れずに小さな挑戦を続け、やがて大きな成功を収めた。これは小さな種子をバラまき、環境に適応して常に進化する雑草の戦略に似ている。私は雑草生態学が専門で、変化の時代にはこの雑草の戦略が参考になると考えてきた。それまでの強者とされた大企業の戦略は、後追いでも低コストで大量生産することで、規模で戦うものだった。これに対して、他者と差別化して強みに集中するGAFAのやり方は、本来弱者が取る戦略といえる」

―日本企業はどうですか。

「進化とは捨てること。オンリーワンになるためには、すべての武器を持つことはできない。その中で何を残すのか。例えば雑草は踏まれても、花を咲かせてタネさえ残せばよい。踏まれる度に立ち上がる必要なんてないのだ。日本には老舗企業が多く、社訓や経営理念を大切にしてきたことは強みになるのではないか。本当に大切なものを明確にし、ブレずに続けることで変化にも対応できる」

―ニッチやシナジー、ティール組織など、近年生物の考え方のビジネス応用が盛んです。

「最近、企業経営者の集まりやビジネスの研究会などで講演する機会が増えた。私が生物のことしか話さなくても、経営者の方々はそこから読み取ってくれ、確かにビジネスと同じだと言う。人間も生物であり、人間が作り出したビジネスが生物の営みと似ているのは自然なことだ。予測不能な現代に、進化を生き抜いてきた生物の多様な戦略は注目されるのだろう」

―まさにダイバーシティーの視点ですね。

「自然界には100万種以上の生き物が住んでおり、そこには100万通りの物差しがある。これまで企業にはある種の成功モデルがあったかも知れないが、世界は単純ではなくなった。その中では人のまねをせず、オンリーワンを磨くしかない。例えば、元気なベンチャー企業はシンプルでスピード重視の単子葉植物のよう。変化のある環境ほど多くのチャンスが眠っているのだ」(聞き手・藤木信穂)

93年(平5)岡山大院農学研究科博士課程修了。同年農林水産省入省。95年静岡県入庁、農林技術研究所上席研究員などを経て、13年より現職。著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』(PHP研究所)など。農学博士。静岡県出身、52歳。
日刊工業新聞2020年11月30日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
「GAFAは雑草」、「ベンチャー企業は単子葉植物」と、生き物に当てはめるとなるほど面白い。一方で、ゆっくりと生きるナマケモノは、スピード時代だからこそ輝くのだという。企業と同様に、個人もニッチを獲得して生き抜く時代になった。「生き残れるのは、変化できる者だけだ」というダーウィンの言葉はいつの世にも通じる。

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