「銅合金」と「生産プロセス」、 二つのコア技術を磨く日立金属のマザー工場
日立金属機能部材事業本部の茨城工場(茨城県日立市)は、電線・自動車部品を生産する海外10拠点におけるマザー工場の役割を担う。本工場のほか、豊浦、日高、電線の三つの分工場で構成する。茨城工場は2013年に吸収合併した旧日立電線の流れをくむ。橘康雄工場長は「“『伝える』をきわめる”の精神を重んじ、技術力向上にひたむきに取り組んでいる」と話す。
茨城工場では鉄道車両用ケーブル、医療機器用プローブケーブル、自動車の電装部品、FAロボット用ケーブルを扱う。近くに機能部材研究所があり、試作・生産現場と密なやりとりできるなど「相乗効果が大きい」(橘工場長)としている。
工場のコア技術は製品に適したより良い素材である「銅合金技術」と、新たな加工法を編み出す「生産プロセス技術」の二つだ。
極細径多心同軸ケーブルの製品化では材料の銅に微量の異種金属を加え、強度と導電性を兼ね備えた「極細銅合金線」を開発。外径10マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の極細化に成功した。
一方、同ケーブルには絶縁体の発泡薄肉被覆という生産技術が不可欠。伝送信号の減衰防止と絶縁体の厚さの抑制という矛盾する課題も解決した。窒素ガスの封入で絶縁体に微小な気泡を含む層を形成し、絶縁体の厚さは50マイクロメートル(髪の毛約1本分)にすぎない。
最近の成果では耐薬品性を持ちつつ表面の粘着性を改善した医療用のシリコーンケーブルの開発がある。新型コロナウイルスの感染予防が叫ばれる中、ケーブルなどを消毒する機会が増している。
素材のシリコーンが「ベトベトして不愉快だ」というニーズに応え、改良を重ねた。「1万回程度、布で拭いても滑り性は失われない」という自信作だ。中国で量産を進めるが、それをサポートするのも茨城工場である。(編集委員・山中久仁昭)
【工場データ】城工場の敷地面積は約118万平方メートル。従業員数は約1400人。電線分工場は旧日立電線の創業工場で、約100年の歴史を持つ。2020年3月期の電線・自動車部品事業の売上高は2133億円。
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