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未来型医療の研究継続、東北大が示す唯一の存在感

未来型医療の研究継続、東北大が示す唯一の存在感

宮城県内7カ所の地域支援センターなどで調査を行っている(東北大提供)

東北大学は東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)を存続する方針を固めた。2021年度から2期目の10年に入る。同機構は11年3月の東日本大震災を受け、全遺伝情報(ゲノム)を活用する未来型医療を目指して設立された国の復興計画の象徴だ。当初は10年間の時限的な組織として発足したが、政府の支援継続が固まったことで、存続期間を延長することにした。

ToMMoは健常者15万人超のビッグデータ(大量データ)の追跡取得で、病気の要因と発症をみる世界最先端のコホート研究と、被災地の地域医療を両立。他研究機関への試料提供や産学連携も進んでいる。

調査対象は宮城・岩手県の住民8万人超と、宮城県の妊婦を中心とする3世代7万人超の2集団。3―5年ごとにデオキシリボ核酸(DNA)や血液などの生体試料を収集し、ビッグデータ解析を手がけている。

ここからメタボリック症候群と関係の深い被災者の生活因子、沿岸部での津波被害による心理的苦痛や骨密度への影響、津波を経験した子どものアトピー性皮膚炎の増加など研究成果を出している。産学共同研究は東芝によるゲノム解析サービスや、JR東日本による震災後の肥満と交通網の関連など20件超だ。

また各種の生体試料約400万本とそのデータ情報からなる複合バイオバンクを構築。再生医療や宇宙航空関連などトップクラスの研究機関に分譲約40件、共同研究130件以上で貢献している。

若手医師の人材育成では、4カ月は被災地の地域病院で勤務、8カ月は東北大で臨床遺伝学研究や研修を行う仕組みを整備。延べ140人を支援した。

健常者のデータ収集は一般に同意が得られにくいが、東北大は復興の地域連携により賛同を得やすい。山本雅之機構長は「個別化予防・医療に向け、(3世代調査が1世代分シフトする)計30年の実施を目指したい」としている。

日刊工業新聞2020年12月3日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
どの大学も世界に誇る研究と、地域貢献の両方を意識しているが、実際はなかなか難しい。地域総合大学の医学部・大学病院は、地域住民の心の寄りどころであり、大学にとっては外部資金獲得の要。学長も医学部出身の教員が就任することが多い。けれども他の分野を含めて大学の敷居は高いままだし、それは震災前の東北大でもそうだったという。大震災復興の政府支援は特異なもので、大きな予算をやっかむ向きもあったが、メディカルメガバンクを典型例に、研究と社会貢献の双方で高い成果を出して、問題なしとの評価を獲得している。他の大学とは違う唯一の存在感と同時に他の大学が両立意識など参考にできることは、大きなポイントといえそうだ。

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