リカバリーウエアに人気爆発の予感
デサントが新製品、そして“開拓者”ベネクスの知られざる起業ストーリー
信頼高め、介護業界へ再挑戦
スポーツジム大手の関係者に介護向けウエアを見いだされ、ベネクスは商品のターゲットを介護からスポーツに向ける。ウエアの名称も「ケアウェア」から「リカバリーウェア」に変更。営業部長の星繁信も他の商材の営業から、リカバリーウェアの営業に軸足を移す。本社も2009年10月に神奈川県の小田原市から厚木市に移転。大都市の東京や横浜へのアクセスを良くし、営業を行いやすくした。
ここからベネクスは飛躍的に成長する。これまでの停滞がうそのように、リカバリーウェアが売れに売れた。「ただ着て寝ていれば疲労が回復するという概念が人々にインパクトを与えたのではないか」と社長の中村太一はその理由を分析する。大学時代の友達からは「利用しているスポーツジムにベネクスの商品が置いてあった」と言われるようになり、うれしさがこみ上げてくると同時に、自信を深める。
【次の一手】
ただ、中村はこの現状に決して満足していない。「再度、創業の原点である介護業界に参入し成功したい」―。スポーツ分野で信頼と知名度を高めたことで、中村は「前回はどこの馬の骨か分からない会社ということが致命傷になった。その分、今回はチャンスがある」と読む。そして「いずれは前職の有料老人ホームに入居する高齢者に商品を納めるのが夢」と話す。
現在、介護業界への再挑戦をかけた取り組みが始まっている。本社を置く厚木市と東海大学健康科学部の志水恵子教授の3者で介護向けのマットレスや靴下の商品化を進める。3月までに素材設計を行い、その後、大腸菌や緑膿(りょくのう)菌、黄色ブドウ球菌などの微生物を使用し、原料が抗菌や消臭に効果があるかどうかを検証する。
使用する人の筋肉量によって効果が変わってくるため、介護用とスポーツ向けは先端材料の種類とその配合を変える必要があるなど、一筋縄には行かない。研究開発部長の片野秀樹は「おそらく完成まで2年はかかると思うが、必ず売れる商品を生み出したい」ともくろむ。
【目指すは世界一】
創業して5年が経過した。中村は「今後5年でベネクスを世界ナンバーワンのリカバリー専業メーカーにする」と意気込む。加えて、「パジャマはベネクスと言われるほどのブランドに育てていきたい」と続ける。
今年、ベネクスは海外進出を検討している。すでに日本での評判を聞きつけた米国、欧州、アジア各国の企業から代理店契約の引き合いが来ている。
座右の銘である「失敗したからといって命までは取られまい」を胸に、30歳の青年社長、中村の挑戦は続く。
(敬称略)
日刊工業新聞2015年10月23日 生活面