温室効果ガス「2050年実質ゼロ」、企業に次元が異なるインパクト

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菅義偉首相は26日、所信表明演説で2050年までの温室効果ガス排出の「実質ゼロ」を目指すと発表した。大胆な目標が企業活動に与える衝撃について識者や企業グループ代表に聞く。初回は企業と一緒に温暖化対策の強化を訴えてきた末吉竹二郎・国連環境計画・金融イニシアティブ特別顧問。企業や自治体など500社・団体が結集した「気候変動イニシアティブ」の代表でもある末吉氏は「破壊的な構造転換が起きる」と見通す。

―長年、厳しい削減目標の設定を政府に提言してきました。
「『50年ゼロ』の表明を喜んでいる。日本は国際競争で不戦敗は避けられたが、熾烈(しれつ)な競争が待っている。言葉や小手先だけではダメだ。ゼロを達成するためのロードマップが求められる。企業は50年では遅い。前倒しでゼロを達成しないと先進企業とはいえない」

―50年ゼロの企業へのインパクトは。
 「現状の目標である『50年80%減』は20%分の排出が許される。50年ゼロは次元が異なり、少しの排出でも“悪”となる。低炭素化でも社会に役立つという発想があるが、それではゼロと整合しない。企業は脱炭素に貢献するかどうかで事業を選択することになる。破壊的な産業構造の転換が起きる」

―海外の動向は。
 「海外企業は脱炭素と相いれない事業をやめる判断をしている。独シーメンスは稼ぎ頭だった火力発電機事業を連結から切り離した。米国では石油大手のエクソンモービルやゼネラル・エレクトリック(GE)がダウ工業株から外れた。市場は米国を象徴する企業でも同情せず、冷徹に退場させた」

―日本ではそこまで重みを持って受け止められず、むしろイノベーションの機会との認識が強いです。
 「確かにイノベーションが重要だが、私は『破壊と創造』と言っている。あくまで市場が変わる破壊が先だ。日本の経営者に言いたい。将来を考えず判断を先送りする経営者がいる企業は、社会から支持されずに市場から消える。将来も会社を存続させるという認識を持ち、経営者には英断をしてほしい」

―課題は。
「政府方針が変わるようだと、企業は安心して事業の再構築や投資を継続できない。英国は50年ゼロを法制化しており、政権交代が起きても目標を容易に変更できない。日本でも議員立法によって法律にしてほしい。企業の脱炭素への移行支援も必要だ」

*取材はオンラインで実施。写真は2017年4月に撮影したものを使用

【記者の目/潮目の変化感じてほしい】
 末吉氏が代表を務める気候変動イニシアティブは2月、「脱炭素化に後ろ向きな国という評価は、世界的なビジネス展開への障害となる」との声明を出した。「50年ゼロ」表明によって企業の心配は払拭(ふっしょく)されそうだ。脱炭素に貢献する技術開発にも思い切った投資ができる。経営者には首相の表明を潮目の変化と感じてほしい。(編集委員・松木喬)

日刊工業新聞2020年10月27日

COMMENT

松木喬
編集局第二産業部
編集委員

菅首相の「50年ゼロ」宣言のインパクトについて、わかりやすくポイントを語ってもらいました。2050年から逆算してCO2ゼロにつながらない事業を続けるべきなのか。将来を語らない経営者がいる企業で働く社員は不幸になります。政府の意思が出たので、経営者も本気で将来の企業存続を考える時がきました。

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