コロナ禍でもベンチャー投資が衰えていない理由
コロナ禍でもベンチャー投資は衰えていない。その背景をベンチャーエンタープライズセンター(東京都千代田区)の市川隆治理事長は、オープンイノベーションが定着したと分析する。次に必要な要素は分厚い人材だ。高校生への起業力教育を提案する。
―不況でベンチャー投資は細りましたか。
「コロナ禍にあってもベンチャーキャピタル(VC)の資金調達は好調だ。事業法人の投資も衰えていない。これはオープンイノベーションの重要性が認知され、事業活動として定着しつつあることを示している。一過性のブームではなく、景気に左右されずに恒常的に社外の智を取り込もうとする動きが広がっている。具体的には2020年の上半期(1―6月)の投資動向を集計するとファンド組成や追加出資の総額は1659億円と高水準にある。事業法人からの投資は737億円(INITIAL調査)と19年1年間の約半分で推移している。国内のVCにヒアリングすると資金調達には困っていない。困っているのは投資先探しだ。コロナ禍で産業構造が大きく変わる中で次の有望な投資先を探している」
―事業会社は。
「日本ではVCと事業法人の投資額は同程度と、事業法人の資金がベンチャーエコシステム(生態系)を支えてきた。これまで事業法人は不況がくると投資を控えて本業に専念すると言われてきたが、20年上半期現在では事業法人の投資が絞られていない。コロナ禍がデジタル変革(DX)を加速させ社外に技術やビジネスを求める必要が増したためだ」
―次に必要な策は。
「この先を見据えると起業を支える分厚い人材が必要だ。一部の大学で起業家教育が軌道に乗り始めたが、これを社会全体に広げたい。起業力は科学力と同様に小中高校で身近に触れる機会が必要だ。科学を学んでも、すべての学生が研究者になるわけではない。だが科学を楽しみ、応援し支える人たちが研究者と科学を支えている。同様に、事業を起こすという挑戦を理解し、応援する人の厚さが起業家と産業、社会を支えることになる」
―公教育は。
「高校生で一度は自らビジネスプランを考え、試す体験型学習を広げたい。社会課題をビジネスで解く。この経験は将来、大企業に勤めても、独立しても役に立つ。米シリコンバレーでは高校で起業家が教壇に立ち、欧州では先生の育成が始まっている。日本はまだ極一部で試行が始まったばかりだ。変化を乗り越える力を養う教育を広げてもらいたい」