日本マイクロソフトが顧客のIT環境を内製化させる狙い
日本マイクロソフト(日本MS)は客先のIT環境をアウトソース(外部委託)型からインソース(内製化)へシフトする施策を拡充する。ITの専門知識がない一般の業務担当者でも簡単にアプリケーション(応用ソフト)を作れる手法の伝授など、デジタル資産・スキルの内製化を支援する。就任2年目を迎えた吉田仁志社長はデジタル変革(DX)の支援に向け、新たな戦いののろしを上げる。(編集委員・斉藤実)
MSはサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)の指揮の下で、2015年頃から経営改革を一気呵成に進め、企業文化を変革した。一方、吉田社長は同時期に、古巣の日本ヒューレット・パッカードの社長に就任し、企業分割で大揺れだった米ヒューレット・パッカードの経営改革に向き合っていた。
月初に開いた経営説明会で吉田社長は、MSによるDXへの取り組みは「私にとって新鮮だった」と語る。MSはソフトウエアライセンス販売を中心とした「顧客に売る」従来のビジネスモデルから「役に立つものを顧客に買ってもらう」戦略に転換するべく自社のDXを進めている。MSがグローバルで成し遂げた「世界最大級のDXの経験と学びを伝えたい」と熱弁を振るった。シンプルなメッセージだが、言葉の端々には吉田社長の本気度がにじんだ。
MSにとって、クラウドや人工知能(AI)は強力な武器だが、飛び道具だけではビジネスは回らない。特に日本MSにとって、協力会社や客先へと広がるエコシステム(協業の生態系)が収益の源泉であり、吉田社長は「外部委託されたものをユーザーにも戻さなければならない時代だ」と指摘。顧客自らがソフトを開発できるように支援する。
こうした流れを加速させるため、ITの専門知識でなくてもアプリが作れる「ノーコード開発」やデジタル人材の育成に力を入れる。
ボトムアップで攻め上げるのはMSの得意技。だが、かつてのようにMSの製品や開発ツールを前面に掲げるのではなく、買収で手中に収めたオープンソースの開発コミュニティー「ギットハブ」の利活用なども促進し、パートナー各社のソリューションとの共存共栄を加速する。
客先やパートナー企業、開発者を対象とした新たな支援拠点を全国に10カ所以上、順次設置する予定。
IT人材の育成にも力を注ぐ。経営者向けビジネス講座を拡張し、学生向け無償教育コンテンツの充実や社会人向けIT人材の育成にもすそ野を広げる。
注目の政府・自治体クラウド商戦はアマゾン・ウエブ・サービス(AWS)にリードを許したものの、吉田社長は「異なる戦い方をする」と言及。行政を横断するコミュニケーション基盤の確立などで巻き返しを狙う。
古巣の日本ヒューレット・パッカードは9月に望月弘一社長が就任した。望月社長は前レッドハット(東京都渋谷区)社長であり、オープンソースの文化を知る経営者だ。吉田社長と望月社長を結ぶ見えない糸がどう絡むかも見所だ。