「規格外野菜」の流通が飲食店にもたらした“新しい価値”の正体

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昨年の台風15号で被害を受けたビニールハウス。傷があっても野菜の味は変わらない

【新しい価値に】

2019年9月、千葉県を台風15号が襲った。佐倉市でゲストハウスを運営する鳥海孝範さんは、会員制交流サイト(SNS)で農作物の被害を知った。民家を改修したゲストハウスは、共有オフィスや放課後に子どもたちが過ごす場にもなっている。鳥海さんは「コミュニティースペースだからこそ、何かできるはずだ」と思い、落果したナシを農家から買い取ってゲストハウスで販売した。

次第に他の農家からも傷ついた野菜を引き取ってほしいと依頼されるようになった。どの野菜も痛んでいても味に問題はない。災害時に限らず、形がふぞろいという理由で規格外となって出荷ができない農作物も多い。食品廃棄の問題に関心を強めるうちに「規格外野菜を買い取り、新しい価値にできる」と考えた。19年10月、被災地のボランティア活動で出会った安藤共人さんと一般社団法人「野菜がつくる未来のカタチ(略称、チバベジ)」を設立し、鳥海さんは代表理事となった。

【外食に販売】

チバベジはさまざまな理由で出荷できない野菜を農家から買い取り、飲食店や家庭に売る。シンプルな流通形態だが、これまでに120件以上の農家と取引し、外食50―60店に販売した。事業者によっては複数の店舗で継続的に購入してくれる。東京都や横浜市にも顧客が広がった。

台風で被害を受けた野菜をゲストハウスのガレージで販売

事業者に支持された理由は「価格よりも、取り組みに共感してもらえたから」(鳥海さん)と話す。食べられるにもかかわらず捨てられる「食品ロス」問題に悩む飲食店は多い。そうした店舗は、チバベジとの取引で食品廃棄削減に貢献できる。規格外野菜が飲食店の“新しい価値”となった。

【顔の見える取引】

農家にも利点がある。通常、収穫した野菜は市場に出すため、農家に価格決定権はない。チバベジは農家が言った値段で買い取るため、農家は安定した収入が見込めて野菜づくりの意欲を持ちやすい。鳥海さんも農場に出向き、生産者から生育状況を聞く。その情報を飲食店に伝えると「天候不順で仕入れが減るのは仕方ない」と納得してもらえる。

いつでも欲しいモノが手に入る流通システムが当然となっている。チバベジは不効率のようだが「会話から共感が生まれるので、農家や店舗と一緒に長く取り組める」と手応えを語る。顔の見えるアナログな取引が、食品ロスの解決や地域の農業の持続可能性につながる。そして「災害時には大量の野菜の廃棄が発生する。今のうちに対策を見つけたい」と今後の展望を語る。

日刊工業新聞2020年10月9日

COMMENT

松木喬
編集局第二産業部
編集委員

ネットでもスーパーでも季節を問わず、どんな野菜も買える時代。自分で買い付け、配達に行くビジネスにイノベーション感はありませんが、しっかりとステークホルダーから支持されていました。今月は「食品ロス削減推進法」施行から1年。9日付SDGs面には外食5社が共同した食品リサイクルも掲載しました。需要予測のAI利用も大事ですが、その前にでやれることはありそうです。

キーワード
野菜 廃棄ロス SDGs

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