コロナ禍で力のなさ露呈、管理職は部下の心をどうつなぎ止めるか

連載・高めろエンゲージメント#02 コーン・フェリー・ジャパン 柴田彰氏インタビュー

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リモートワークの普及は管理職の課題を露呈させている(写真はイメージ)

所属企業に対する愛着や思い入れの度合いを示す「従業員エンゲージメント」について、リモートワークの導入に伴う低下を危惧する企業が増えている。従業員エンゲージメントは離職率や生産性との相関が指摘されており、その重要性の認識が広がっている。『エンゲージメント経営』などの著作を持つコーン・フェリー・ジャパン(東京都千代田区)の柴田彰シニアクライアントパートナーにwithコロナ時代における従業員エンゲージメントの維持・向上策などを聞いた。(聞き手・葭本隆太)

同じ場を奪われて課題が露呈した

-新型コロナ禍に伴うリモートワーク導入が従業員エンゲージメントに与えている影響を教えてください。
 統計的なデータが取れるほどの期間が経過していないので、顧客企業と会話している中での気づきですが、エンゲージメント(の低下)を危険視している企業は多いです。社員の貢献意欲や仕事へのやる気を引き出すトリガーは日々のコミュニケーションですから、リモートワークの導入によってそれが制限されるとやはり(社員に)遠心力が働きます。働き方が変わった中で、エンゲージメントをいかにつなぎ止めるかは特に大企業にとって大きなテーマになっているのは間違いありません。

-どのような対策を取るべきでしょうか。
 特効薬というのはありませんが、正攻法で言えば、減ってしまったコミュニケーションの機会を確保するしかありません。接点を確保する方法が論点になります。会社としてのメッセージングは一つの方法ですが、企業では上司と部下のコミュニケーションが最も重要です。それを担保する必要があります。管理職者の中にはこれまで職場という同じ空間を共有していたからこそコミュニケーションが成立していたという人もいます。そうした場がなくなり、意識的に働きかけないと部下をコントロールできなくなったことで困った企業が出てきています。

コーン・フェリー・ジャパンの柴田彰シニアクライアントパートナー

-オンライン会議システムなどを通して上司が部下に対するコミュニケーションを積極化する必要があるということでしょうか。
 量を増やすのは王道です。ただ、その程度が難しい。コーン・フェリーが行ったグローバル調査では、むやみやたらにコミュニケーションの量を増やすと逆に社員のモチベーションが下がるという結果が出ています。リモートワーク環境になり、移動時間がなくなったことで打ち合わせがどんどん入り、(コロナ禍以前よりも)忙しくなっている人がいます。その中で、よくわからないコミュニケーションの機会を増やすのは間違いです。(管理職であれば部下の状況を理解した上で)タイミングと中身を整える必要があります。

-その適切な判断が難しそうです。
 そもそも管理職という立場であれば、部下のことを理解していないといけません。部下の特性や働く動機になるスイッチを把握し、管理することが多くの日本企業の管理職は決して上手ではありません。日本企業における管理職のマネジメントは紋切り型が多く、「俺の背中を見て育て」というスタンスです。組織マネジメント力の向上は長年課題とされてきましたが、(コロナ禍に伴うリモートワークの導入により)同じ場を共有する機会を奪われたことでその課題が露呈しています。

発想の転換が必要

-なぜ日本企業の管理職はマネジメントが上手ではないのでしょうか。
 国民性は背景の一つでしょう。単一民族なので(意識せずとも空気を読むと言った)ハイコンテクストな会話が成立します。また、日本の企業は村社会に近く、社歴が長い人を自然に尊重する文化ができています。その中で(日本経済が右肩上がりで成長していた)かつてのよき時代は、言葉は尽くさなくても部下は頑張って働いてくれるため、マネジメント力を高めなくても成立しました。ビジネスのプロセスは固まっており、部下はそれに従って働くもので、そうでない部下は駄目な社員だと捉えられました。しかし、今はそれではいけません。組織の達成目標を逆算して分解し、プロセスごとにKPI(重要業績評価指標)を設定して回しきる力が必要ですし、そこにそれぞれの部下を当てはめて動機づける力が求められます。

一方、欧米のグローバル企業は多民族が所属し、国をまたいで仕事をするのも当たり前です。社員それぞれのバックグラウンドが違う中で、言葉を尽くしてマネジメントをしないと企業は生き残ってくることができませんでした。

-管理職がマネジメント力を高めるためにどうすればよいでしょうか。
 まずは、人は十人十色であることを理解した上で、部下のモチベーションを引き出したり、キャリアを作っていってあげたりするということが本来の仕事だと気づかなくてはいけません。管理職の捉え方を変える発想の転換が必要です。

世代を問わず最も重要な要因

-著書『エンゲージメント経営』では欧米に比べて日本企業における社員エンゲージメントの低さを指摘しています。なぜ日本企業は社員エンゲージメントが低いのでしょうか。
 社員エンゲージメントという概念自体が念頭になく、企業は従業員の意欲を喚起するような取り組みをしてこなかったからでしょう。日本企業は元々モノカルチャーで、みなが歯を食いしばって頑張れば会社は伸び、給料も伸びました。終身雇用のために共同体のようになり、そこで働いていることがすべてでした。そのため、経営者もエンゲージメントには意識が向きませんでした。中高年は会社に行って働くのは当たり前という価値観でしたが、今の若い世代は違います。全員がそうというわけではありませんが、プライベートも仕事も関係なく、自分の人生をどう楽しんで生きるかという価値観があります。そういう人たちに対して会社は価値を提供できていないのだと思います。

-日本企業の社員エンゲージメントに対する認識は変わってきたのでしょうか。
 大企業を中心に関心は高まっています。その要因としては特に若く優秀な人材の流出に対する不安が一番でしょう。例えば、どんなに有名な大企業でも若手の流出率は高まっているといったことが大きな経営課題になっています。

-社員エンゲージメントは若年層ほど低いのでしょうか。
 会社によって濃淡はありますが、年代別に分析すると(20-30代前半の)若年層は低く、中高年層は比較的高い傾向があります。これは期待と現状のギャップに起因します。言い方は悪いですが、中高年層は会社に対するあきらめがあります。「会社はこんなものだろう」と。古い世代は身を粉にして働く価値観が前提にあるので、期待と現状のギャップが大きくありません。一方、若手は自分のキャリア設計に対する要望が強く企業に対する期待が大きいのに、満足できる仕事を与えられないとがっかりします。期待と現状に大きなギャップを感じて低くなります。

-若年層のエンゲージメントを維持・向上する方法としては、キャリア背系の要望に応えるような対応が重要になるのでしょうか。
 (コーン・フェリーによる調査では)エンゲージメントを左右する因子として「自己におけるキャリア目標達成の見込み」は中高年層に比べて若年層では上位に位置します。ただ、最上位は世代を問わず「顧客に提供する体験価値への自信」です。働いている人間としては社会における所属企業の存在意義を重要視したいということです。そこに誇りが持てなければ、自分の人生の相当の時間を費やす先として正しいのか疑念を持ってしまいます。

経営陣の本気度が問われる

-「顧客に提供する体験価値への自信」を社員が持てるような取り組みは一朝一夕ではできません。
 それでも企業は不断の努力が必要です。あるメーカーの例ですが、エンゲージメント調査を行い、低かったことに経営陣がショックを受けて真剣に取り組みました。3-4年をかけて自分たちの提供価値やその会社に所属する意味を考え、社長が語りかける場所を増やしたり、社内向けポータルサイトを通して発信したりしました。まだ、道半ばではありますが、エンゲージメントは上がってきています。努力は報われるということです。それは他社にも言えることでしょう。

また、「顧客に提供する体験価値」を考えることは、会社の持続的な成長を考えることです。そもそもエンゲージメントを高める活動がフォーカスされるのはおかしい。エンゲージメントを高めるのは企業を持続的に成長させるためです。そこに真剣に取り組めば、自ずからエンゲージメントは高まると思います。

(直近では)コロナ禍によって事業環境が変わった企業は多く、大きな打撃を受けた飲食業や旅行業の中にはビジネスモデルを変えなければならない企業もいます。もう一度、自社がどうやって社会に価値を提供していくのか本腰を入れて考えなくてはいけない局面に来ています。それを考えることで、自分たちが提供する体験価値がクリアになります。さらにその検討において大切なのは「選択と集中」。自分たちの経営資源をどこに投入するか、その選別が大事だと思います。

-経営陣が主導して取り組む必要がありますね。
 経営陣が本気になり、トップダウンでやらなければ効果は得られません。経営陣がエンゲージメントを高めたいと考えた時に、「現場で実効性のある仕組みを作れ」と無理難題が社員に課されるケースを見聞きしますが、そうしたボトムアップの手法は有効ではありません。経営陣の本気度こそが(エンゲージメントを高める)大きなレバーだと思います。

 

-採用・雇用市場では特定の職務に適した人材を採用して職務に応じた処遇を行う「ジョブ型雇用」が広がっていますが、これが社員エンゲージメントに与える影響をどのように見ていますか。
 ジョブ型雇用の世界が本当に実現すると、「就社」ではなく「就職」になります。会社という枠組みを超えて、職種に依存する生き方が定着するはずです。その結果、会社としてはその人をどのようにつなぎ止めるのかという問題が出てくるでしょう。企業が「顧客に提供する体験価値」を明確にして、社員の共感が得られるか否かがますます重要になります。

【略歴】柴田彰(しばた・あきら)/ 慶応義塾大学文学部卒、PwCコンサルティング(現IBM)、フライシュマンヒラードを経て現職。各業界において日本を代表する大企業を主なクライアントとし、組織・人事領域の幅広いプロジェクトを統括。 近年は特に、社員エンゲージメント、経営者のサクセッション、人材マネジメントのグローバル化に関するコンサルティング実績が豊富。著書に『エンゲージメント経営』『人材トランスフォーメーション』、共著に『VUCA 変化の時代を生き抜く7つの条件』など。

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COMMENT

葭本隆太
デジタルメディア局
ニュースイッチ編集長

在宅勤務の環境下でオンライン会議を設定し過ぎるとエンゲージメントが低下するという指摘は、自分の身に置き換えると納得する部分があります。柴田さんのお話を聞くと、「不要論」もささやかれるオフィスには大きな価値があるように感じましたが、いずれリモートワークをしながら「場の共有」という価値が得られるテクノロジーが登場する未来が来るでしょうか。

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