夢洲開発に“待った”、万博と同時開業の夢が潰えたワケ
新型コロナウイルス感染拡大の余波を受け、大阪府・市が有効活用を目指す「夢洲〈ゆめしま〉(大阪市此花区)」の開発に“待った”がかかっている。府市が同地への誘致を目指すカジノを含む統合型リゾート(IR)は、立候補する海外事業者との対面交渉が困難なことから協議を中断。大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)の「夢洲駅タワービル」も構想見直しを迫られている。2025年には「大阪・関西万博」のパビリオンと並んでIR関連の巨大建築がお目見えするはずだった夢洲に、暗雲が立ちこめている。(取材=大阪・大川藍)
「事業者の投資余力も落ちており、そういうことも勘案しながら開業時期を見定めたい」。6月の会見で大阪市の松井一郎市長はこう答え、夢洲に誘致予定のIRと万博との同時開業を断念。これまで27年3月末の全面開業を条件としていたスケジュールをさらに1―2年後ろ倒しする考えを示した。7月が期限だった提案書類の提出も無期限延期とし、IRに関する交渉は事実上ストップしている。
大阪IRに唯一名乗りを上げているのが事業者大手の米MGMリゾーツ・インターナショナルだ。大阪がIR誘致を表明した当初から熱心にPR活動を展開し、脅威に感じた他社が事業者公募の直前に参入をとりやめた経緯がある。ただそんなMGMも、米国の感染拡大に伴い施設を休業した関係で、4―6月期の売上高は前年同期比約9割減と大幅に落ち込んだ。大阪IR参入の方針は変わらないものの、先行きを注視している状況だ。
一方、IRの開業を前提に夢洲へ巨大ビル建設構想を発表した大阪メトロ。夢洲駅タワービルは高さ最大275メートル、地上55階建ての複合施設で、万博前の24年開業を目標に構想が進められていた。投資額1000億円超の巨大プロジェクトだが「IRが誘致できても現時点では(開業が当初予定より)延びる可能性が高く、一気にタワーを建てるのは難しい」(河井英明社長)と見直しを迫られている。
仮に1―2年の延期を経て無事にIRが開業できたとしても、その規模や内容が当初の想定通りにいかない可能性も出てきた。1兆円とされるIRの投資規模について大阪府の吉村洋文知事は「現時点で(縮小の話は)ない」と否定する一方、7月にMGM社長へ就任したビル・ホーンバックル氏は会見で「この投資は賢明だと思う場合のみ行う」と述べたと、消極的な姿勢が報道されている。
万博・IR同時開業の夢が新型コロナによってついえた夢洲。国家事業である万博は25年4月に開幕する方針で、夢洲までの地下鉄延伸も予定通り進められているものの“万博後”の道筋は描きにくくなっている。