テレワークを経験し「オフィス」が再評価され出した!不要から選択的利用へ
4月の緊急事態宣言でテレワークを経験したベンチャーの中で、オフィスを再評価する動きがある。テレワークの最大の課題は同僚などとの感情共有の難しさにある。悩みを一人で抱える時間が増え、生産性が落ちたとする声がある。最近はオフィス不要論といった極端な議論ではなく、必要に応じてオフィスを使う選択的利用の時代に入ったとする見方も出てきた。(取材=大城麻木乃)
【対面は不可欠】
「一度、フルリモート(全社員リモートワーク)をやってみた。事業の進捗(しんちょく)が遅くなったことに気がついた」―。
8月下旬、三菱地所が主催した新東京ビル(東京都千代田区)4階の新オフィス改装記念イベント。入居するベンチャー、ボーンレックス(東京都江東区)の室岡拓也代表取締役は、こう切り出した。オフィスにいた頃は「誰かが問題を抱えていると、周りの社員が寄ってきてすぐに井戸端会議が始まった」。それがリモートワークでは難しくなり、生産性が落ちたという。
別の入居企業からは「ベンチャー企業は事業の優先順位がどんどん変わり、社員の役割も流動的。事業の変化を都度、共有するには対面でのやりとりが欠かせない」「18カ国の多国籍な社員がおり、顔を合わせたコミュニケーションは不可欠」といった意見もあった。オフィスのオーナーである三菱地所が主催したイベントだけに、発言に配慮した面は否めない。だが、緊急事態宣言から半年近くが経過し、テレワークの課題を指摘する声が出始めている。
9日に新本社お披露目で会見したソフトバンクの宮内謙社長は「社員の6―7割がリモートワーク中。若い人からは家で働くのは大変という声がある」と語った。まだ仕事に慣れていない若手社員にとっては、何度も電子メールや電話で先輩に問い合わせるのは気が引けるため、気軽に声をかけやすいオフィスを望む声がある。
「今後は働く人が自らコントロールして働く場所を選ぶ時代になる」。こう指摘するのは、実証実験を通じて未来のオフィスのあり方を探るベンチャー、ポイントゼロ(東京都千代田区)の石原隆広代表取締役。このほどオフィスや自宅とも異なる個人が集中して働く場「サードプレイス」をつくる空間コンサルティング事業を始めた。
同社は子育て世代や自宅周辺が工事中など、家で集中して働けない人は一定数いると分析。オフィス、自宅以外のサードプレイスの需要が高まっているとみて、企業向けに適切なオフィスデザインのあり方などを助言する。同社の後押しで、2020年度中に東京、21年春に大阪で第1号の店舗ができる予定だ。今後3年で100店舗の開設支援を見込む。
石原代表取締役は「個人が業務内容によってオフィス、テレワーク、さらにサードプレイスを使い分けるようになる」と見通す。
リモートワーク一辺倒やオフィス一辺倒ではなく、サードプレイスも駆使しながら、どこで働くのが一番効果的なのかを企業も労働者も模索している。