ウェブ展示会で見えた課題、「1対多数」から「1対1」の商談に繋げるには?
プレゼン生配信、コストはリアルの20分の1
新型コロナウイルスの感染拡大で数多くの展示会が中止・延期される中、オンラインでの新製品、新技術提案に挑む機械メーカーが増えている。食品業界向け包装・計量機器のイシダ(京都市南区、石田隆英社長、075・771・4141)もその一つ。現場の取り組みから、新たな可能性と課題を探った。(京都編集委員・松中康雄)
【イシダDIVE】
イシダは8月にウェブ展示会「イシダDIVE」を公開した。リアル展示会を模したレイアウトで新製品の説明動画なども配置。8月3―7日と17―21日の計10日間、1日2―3回のスケジュールで、実機実演を交えた生配信のプレゼンテーションも行った。
新製品は食品工場向けの高性能な検査装置や、省人化対応の計量機など5機種。ライブ配信は1時間の枠で1機種を紹介し、視聴者はチャットと音声で質問できる。まず短い事前作成動画でアピールポイントを示し、画面を現場に切り替えて実機実演に入り、質疑応答に移る構成だ。
ウェブ展はマーケティング・商品企画部商品企画二課が主導した。滋賀県の主力工場近くの倉庫に自前の仮設スタジオを開設。プレゼンターの前に複数のモニターやカメラが並び、映像ミキサーなども同課スタッフが操作する。費用はリアル展示会の20分の1程度。約10人のチームによる手作りライブで新時代の顧客接点を模索した。
【訴求点を前面に】
多様な顧客の視聴を想定し「飽きずに最後まで見てもらうことを意識した」(河村涼一商品企画二課課長)。検査機の場合、良品と不良品の双方の検査を実演。検査機構や検出時グラフ画面をアップ表示し、言葉と画面テロップで分かりやすく解説した。プレゼンターを務めた同課の松尾信紀さんは「入念な準備ができ、訴求点を前面に押し出せる」と利点を話す。
ライブ視聴はメールマガジンや営業担当者らを通じて募集。遠方などで従来の展示会に足を運べない顧客や、在宅勤務中の顧客らも参加できた。エントリーが1人でも実際は複数人が一緒に閲覧するケースもあった。
質疑ではチャットで機能などの補足説明を求める質問が多かった一方、音声質問は遠慮されがちだった。松尾さんは「対面と比べ顧客の本音は引き出しづらい」と指摘。河村課長は「日頃は競合関係の人たちが一緒に参加するため、掘り下げた質問は控えたのかもしれない」と推察する。
「1対多数」のライブ配信から「1対1」の個別商談にいかにつなげるかの課題も見えた。河村課長は「次の仕掛けのヒントを得た。新しい生活様式が根付こうとする中、ウェブで情報を得たいニーズは高い」と実感。経験を積み、リアルと併用していく考えだ。
【海外展開も】
事前リハーサルでは海外駐在の営業担当者らに視聴を依頼した。程度の差こそあれ、移動制限の状況は各国同じ。今後、海外展開や他の商品にも活用していく考えだ。2021年にはウェブを使い、新製品の世界同時リリースも検討しているという。
アフターコロナ時代を見据えた取り組みは多方面で始まっている。BツーB(企業間)主体の企業もウェブを販売チャンネルの一つと捉え、育てる必要がありそうだ。