なぜ通貨供給量が過去最高になっても、「経済学」の教科書通りに日本の物価は上がらないのか

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量的・質的金融緩和を説明する黒田日銀総裁(2013年4月)

日銀が12日発表した7月のマネーストック(通貨供給量)速報によると、現金・預金などの合計を示す代表的指標のM3の平均残高は前年同月比6・5%増の1452兆7000億円だった。伸び率は現在の統計で比較可能な2004年4月以降、残高も現統計でさかのぼれる03年4月以降の過去最高を更新。新型コロナウイルス感染拡大への対応で、企業が手元資金の確保へ借り入れを増やした結果、預金通貨が伸びたのが主因だ。

M3のうち、現金通貨は5・6%増の107兆8000億円、預金通貨は14・1%増の793兆6000億円と、いずれも残高が過去最高水準となった。預金通貨の増加には、特別定額給付金の給付を受けた個人の預金積み増しも寄与した。

広義流動性は4・8%増の1900兆円。このうち金銭の信託は1・5%減と、3カ月連続の減少。国債は1・5%増と、3カ月連続増加した。

M3からゆうちょ銀行や信用組合などを除いたM2は7・9%増の1111兆1000億円だった。

日刊工業新聞2020年8月13日

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志田義寧
北陸大
准教授兼経済ジャーナリスト

中央銀行はマネタリーベースを通してマネーストックを間接的にコントロールできる。したがって、マネタリーベースを増やせば、マネーストックも増え、貨幣価値の下落を通じてインフレになる。標準的なマクロ経済学の教科書に載っている理論だが、残念ながら日本には当てはまらない状況が続いている。日銀が2013年4月に量的・質的金融緩和に踏み切ってから、すでに7年が経過した。この間、マネタリーベースは134兆円から566兆円に、マネーストック(M3)も1141兆円から1452兆円にそれぞれ拡大したものの、全国消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比は未だ目標の2%に届いていない。どこに目詰まりがあるのか。7月はその傾向が顕著だったが、マネーは預金に滞留している。将来に期待を持てない中で、人々がお金を貯め込むのは当然だろう。金融緩和も必要だが、今の日本にとっては成長力強化に向けた取り組みをさらに加速させることの方が重要だ。

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通貨供給量 日銀

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