社長だってリモートワーク、激変するオフィスの風景
役職・席次、気兼ねなく?
リコーの山下良則社長は、率先してリモートワークを始めた。今も平日5日間のうち、2日は在宅、2日は本社、残り1日は、神奈川県海老名市などにある本社以外の事業所などで執務する。
山下社長は「欧州(拠点)の社員とも定期的にリモート会議をしているが、本社でやるよりも自宅の方がどんどんつないで会議に参加できる」とメリットを実感。今後も週2日は在宅勤務する考えだ。
社員からは「社長との会議では、リモートの方がよりフラットに対話できる」という声もある。リアルな会議室だと役職順で上座に座るなど気を使うケースもあるが、リモート会議ではどこに誰が座るか気にする必要もない。自分の意見を積極的に言いやすい雰囲気にもつながっている。同社は本社を含む首都圏の事業所4拠点で、今後は出社率を最大5割とする方針だ。
ユーシン精機は顧客との打ち合わせのオンライン化を進めた。従来は参加していなかった設計者も加わり「コミュニケーションの深化につながった」(小田康太取締役)という効果もあった。
同社は2018年にRPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)を導入。20年3月末までに従来比5700時間の作業時間を削減した。RPAでは製造部門を中心に工程の進捗(しんちょく)管理や、一部の設計プログラム作成などを自動化。20年初からは、稟議(りんぎ)書や各種申請フローの電子化に着手しており、リモートワークにスムーズに移行できた。
社員からは「企画など、自身のペースで業務に取り組める業務は(リモートに)向いている」という声が挙がっている。ただ「責任者など部署内で指示伝達する立場の人は、メンバーのそばにいてほしい」という意見もあった。小田取締役は「適切に業務管理する環境整備が課題」としている。
情報見える化、格差防ぐ
コロナ禍を経て“オフィスには社長1人”が日常になったのは、ゼノデータ・ラボ(東京都渋谷区)。同社は企業の業績情報やニュースを人工知能(AI)で分析し、経済や企業の将来を予測するサービスを手がける。25人の社員の半分以上はエンジニアのため、リモートワークを以前から採用し、多くの社員が利用してきた。
3月には完全リモートワークに移行。それまではオフィス出社組だけで話し、リモートワーク組との情報格差が生じることがあった。関洋二郎社長は「業務上のコミュニケーションを見える化できた」と完全移行の効果を説く。
そのカギはビデオ会議の効率性にある。事前に議題を決め、会議中に議事録を作成・共有しながら合意を目指している。情報共有手段の運用も工夫する。チャットツールの投稿は、1対1ではなくチーム全体が原則。情報の齟齬(そご)が生じないようにするためだ。
6月には本社を従来の約3分の1の広さの場所に移転。新本社は関社長の執務スペースと、サーバーの設置場所としての役割のみだが、会社の業務は十分に回っている。
地域貢献、働く場多様に
新しい日常の一環として注目されるワーケーション。ユニリーバ・ジャパン(東京都目黒区)は、19年に導入した。北海道下川町や静岡県掛川市など全国7自治体と提携。市役所や学校をコワーキングスペースとして社員が無料利用できる。働く場所の選択肢を増やし、地域の枠を超えた人材交流でビジネスアイデアの創出にもつなげる。
ワーケーション先では業務時間外に各自治体が指定する地域課題解決に関わる活動に参加できる。特産品のPR戦略の策定や、国連の持続可能な開発目標(SDGs)について現地の学校で出張授業を実施。活動に参加すれば、提携宿泊施設の宿泊費が無料または割引となる。
社内会議の予定などでワーケーションを取得した社員はまだ数人だ。コロナ禍で在宅勤務が常態となり、業務のオンライン化が進んだ。新名司アシスタントコミュニケーションマネジャーは「現在は休止中だが、コロナ収束後は取得が進む」と予想する。
DATA/人事評価の公正性に不安
2月以降、多くの企業がリモートワークの導入に踏み切った。パーソル総合研究所(東京都千代田区)よると、リモートワークによる不安感や孤独感は、在宅勤務者が2―3割を占める職場で最も高いことが分かった。
職場全体の実施率によって異なり、実施率が2―3割の職場では実施率6割以上の職場と比較して、不安感が1.2倍となった。また上司や出社勤務者が「在宅勤務者が仕事を本当にしているか」という疑念を持ったり、公正な人事評価ができるかという不安を感じたりすることも明らかになった。
上司に公平・公正に評価してもらえるか不安と考える人は、在宅勤務者が34.9%、出社勤務者が31.3%だった。公正に評価できる自信がないと答えた上司は39.4%だった。
業務の進捗(しんちょく)が分かりにくいとの声も多かった。新しい働き方が根付くには職場の業務フローや評価の新たなルール作りが急務といえる。