リモートで変わる職場のメンタルケア、上司と部下の“通訳"はなぜ必要か
リモートワークが一気に拡がり、多様な人材が活躍できる環境づくりは今後ますます必要となる。多様な人材を活かすためのコミュニケーションで重要なことをお伝えしたい。
治療と仕事の両立支援については、厚生労働省が「両立支援コーディネーター」の配置を推奨している。コーディネーターの役割は、患者ごとの治療と仕事の両立に向けたプランの作成支援や相談支援などだ。
その中で特に重要なのは「対象者の本音の困りごとを聞き出す」ことではないだろうか。これは治療中の対象者に限らない。子育て中の人も、介護中の人も、本音の困りごとを会社や上司に相談できていないことが多いように思う。
例えば、上司は「子育て中だから負担をかけないように、責任の重い仕事は任せないようにしよう」と部下を気遣っているつもりが、本人は「戦力として見られないのは悔しい。本当はもっと責任ある仕事をしたい」と感じつつも、言い出せない。
そこで関係者の「ハブ」となれる両立支援コーディネーターや産業保健スタッフが、両者の気持ちを聞き出し、“通訳”し、結びつけ、より良い仕事の形をともに考える。時間とともに事情も変わる。「あなたは貴重な人材である。だから大変な時期は一緒に乗り越えよう」という会社側からのメッセージが、何よりも心に響くのではないか。
認識しておくべき点は、日本は従来「ハイコンテクスト文化」だということである。共通の常識、共通の考え方を持つ人同士で仕事をしてきた歴史が長く、多くを語らなくても互いに察する「以心伝心」や「一を聞いて十を知る」ことを美徳とする文化だ。
だからこそ相当に意識しないと、ダイバーシティー(多様性)は進まない。これからは、リモートワークや異文化・異業種の人々と連携する仕事が増えてくる。そうなると、「言語化する努力」と「伝えようとする努力」、そして「創造的な衝突を恐れない」ことが重要になる。
どこにいても議論に参加できるプラットフォームを作り、それぞれの場所から自分の意見を発信することを歓迎する。その底流には「心理的安全性」があることも重要だ。そのチームがどこに向かって走っているのかさえ共有できていれば、意見のぶつかり合いは創造的なものとなり、事業における新しい価値を生み出すことができる。
(文=SOMPOヘルスサポート シニアゼネラルコンサルタント・桜又彩子)