「物言う株主」の提案退けるも、業績回復という“模範回答”が求められる東芝
東芝が7月31日に開いた定時株主総会で、「物言う株主」として知られる2つの投資ファンドが推薦した社外取締役の人事案は否決された。会社側が提案した取締役12人の選任は可決された。しかしファンド側にも一定の支持が集まったとみられ、今後も経営陣との緊張関係が続きそう。新型コロナウイルス感染拡大で一時的な業績の落ち込みは不可避。強まる株主の圧力に対する“回答”が求められる。
「海外の優良企業のCEO(最高経営責任者)から東芝は有名だ。『アクティビストは1社でも大変なのに、10社も抱えていて車谷さんはよく生きているね』と驚かれる」と東芝の車谷暢昭社長は笑いながら話す。
難しい物言う株主との付き合い方もこれまで順調だった。車谷社長は「我々の変化が速くて大きければ、アクティビストも短期より3―4年待った方が利益が増えると判断して待つ」と“変わる東芝”を示すことで協調関係を築いてきた。
ただ今回、新型コロナによる株価急落などを背景に、大口株主のエフィッシモ・キャピタル・マネージメントと、3D・オポチュニティー・マスター・ファンドから推薦する取締役の選任を求める株主提案をそれぞれ受けた。
エフィッシモの主張は、東芝が20年1月に公表したIT子会社の架空取引問題を招いたとするガバナンスの不備に依拠している。そして、15年から続く不正の連鎖を断ち切るために推薦候補者の取締役選任を提案することにしたという。
東芝の取締役会は両提案について反対を表明した。小林喜光取締役会議長(三菱ケミカルホールディングス会長=総会後に退任)は「現在の取締役は非常にバランスがとれている。株主と対決する意図は全くないが、今回は全会一致で反対と判断した」とその理由を語る。
東芝は19年6月に先進的なガバナンス体制を導入した。12人の取締役のうち社内取締役は車谷社長と綱川智会長の2人のみ。東芝の歴史上、約80年ぶりとなる外国籍の取締役らを起用し、社外取締役の構成比率は欧米企業並みに向上した。
また、17年12月の増資により株主の約7割がアクティビストなどの海外投資家となったことで、資本市場との対話の重要性が急速に高まった。19年は社外取締役と株主のグループミーティングを2回開くなど、積極的な対話姿勢を示してきたはずだった。
車谷社長は「(18年に)CEOに就任して以来、ガバナンスとコンプライアンス(法令順守)は経営の最優先事項として取り組んできた。子会社数の削減などで階層をシンプル化し、事業運営体制を強化するとともに、意思決定の迅速化を目指してきた」と実績を強調する。
IT子会社の架空取引問題を受けて、行動評価を重視した人事制度の確立とミス防止・見える化を進めるITシステム整備、コンプライアンス有識者会議の設置などを打ち出した。「(事業部門、管理部門、監査部門の)3ラインディフェンス強化により不正案件の再発防止の徹底を行う」と車谷社長が先頭に立つ。
東芝の課題は確かな成長戦略の立案と、その実行による業績回復に尽きる。最近は「インフラサービスカンパニー」への変革を掲げ、進むべき針路を明確にした。車谷社長も「投資家からは『経営者はアスリートと同じだ』と言われる。常に国際試合に出場しているようなもので、企業の構想や計画を周囲に納得してもらい結果を出す必要がある」と覚悟する。コロナ禍での業績V字回復が株主などが期待する“模範回答”だ。
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