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コロナ禍で研究者1万人が不安と悔しさを吐露、キャリア・研究活動はどうなる?

男女共同参画学協会連絡会(熊谷日登美委員長=日本大学生物資源科学部教授)は新型コロナウイルス感染症の影響を、現場研究者1万1000人超に聞いたアンケート結果をまとめた。研究活動は現在、徐々に再開中の機関が多いが、調査時は入構禁止による実験停止や細胞・動物の破棄が、研究活動の不安に強く跳ね返った。特に若手の任期付き研究者にとっては、期間内の成果創出が死活問題となるため、キャリアについての心配が強い。同会では研究費や雇用の期間延長、報告書の期限延期などを、国や各研究機関に求めていく。(取材=編集委員・山本佳世子)

■実験停止/試料・動物の破棄…

男女共同参画学協会連絡会は理系女性研究者の問題を中心に、100超の学協会の参加で活動する。6月半ばまでの1カ月で行ったウェブアンケートは人文・社会科学系にも広がった。回答者は1万1112人で年齢層の偏りはなく、男性が7割で、任期なし雇用が6割。社会全体の研究者構成に近い状況の大規模調査となった。

調査時点で研究における不安は、「大変不安」が25・5%、「やや不安」が54・2%で合わせて8割に上った。これらの回答者に具体的に尋ねたところ、全世代の心配として「実験や調査の内容・質」が7割超で突出していた。移動制限による屋外調査の中断が最も多く、施設や機器が使えないことも多数が挙げた。

■キャリア・雇用 死活問題

ライフサイエンス系では「研究室の使用制限が厳しく、時間と予算をかけて作製してきた試料(細胞など)を失った」「クラスター発生時には特殊な系統を含め、すべての動物の殺処分が決まった」など、生き物相手で深刻な声が目立った。

例えば遺伝子組み換え動物を処分し卵のみ保持している場合、改めて子世代を作り出すのに1年程度かかるという。研究費執行や任期制雇用の期限を考えると、不安は相乗的になる。研究室の出入り制限に明確な基準がなく、大学によって対応が違う点にもやりきれなさが募ったようだ。

「研究費の執行」の不安も約3分の1が挙げた。研究計画の申請書に記していた出張や移動ができなくなり、その変更や、研究費が使える実質的な時間が短くなるのではないかという心配だ。

今後のキャリアや現在の雇用の不安は、若手で切実だ。近年の国際化推進の中でありながら、「博士研究員として海外で雇用の予定だったが渡航できなくなった」「強制的な帰国となった」結果、パートタイムや無給の研究員など、キャリアダウンになった具体例が寄せられた。

■研究費・報告書の期間延長など、救済策必要

今回の状況に対する支援要望では、研究費執行期間や報告書の提出期限を伸ばしたり、ネットワーク環境を整備したりという項目が4―5割で挙がった。同連絡会では国などにこれらと、対策がとられた場合の現場の事務方への周知徹底を求めていく。

日刊工業新聞2020年7月27日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
研究者の悔しさには、研究機関によって対応が違うことも絡まっている。共同利用の大型機器のオンライン利用は進んでいるところと、管理が厳重で不可というところと差があるという。研究室への出入り制限も、各地域の感染の状況もあって仕方ない面もあるが、だいぶ違った。研究型大規模大学などしっかり(感染防止対応という意味では優れている)しているが、任期制研究者がより多い大学だと考えると悩ましい。現在、各大学は卒業を控える学生を抱えて、対面授業より先に研究室を再開しつつあるが、そこでの対応も第二波への備えもまた、一律ではないことが気がかりだ。

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