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その理由は国民性!? 中国メーカーとの仕事で気を付けること

機械設計2020年7月号連載 不良品トラブルをなくす中国部品メーカーのトリセツ
日本人設計者が中国メーカーに製造を依頼したときに発生しがちなトラブルの原因として、①中国人の国民性と,その国民性による仕事の仕方を理解していないこと、②本人の会話やメールなどでの情報の出し方が非常に曖昧であること、③設計者による中国の製造現場の確認が十分になされていないことの3つがあげられるという。本連載では,これら3つが原因となって発生したトラブルに関して,著者の経験に基づく実例をあげ,そこから得られた反省点とそれらの対策を紹介している。

不良発生時の効率的な訪問

部品メーカーを訪問する目的はさまざまあるが,その中でも不良品が発生したときの訪問は技術者にとって最も重荷である。それは,訪問の目的が原因究明と本来の品質に戻すための対策の実施と明確になっており,また製造ラインのストップや暫定対策での量産継続には期限があり,猶予がいっさいないからである。

ましてや原因究明から始めるとなると,部品メーカーの協力が必要のため,確実な意思の伝達が必要となり,また期限があるので事前準備と効率の良い作業が必要となってくる。今回は事前準備と効率の良い作業方法に関してお伝えする。

事前準備が重要

中国の場合は事前準備がとても重要である。一つの理由は,部品メーカーの品質不良によって,製品の製造ラインが止まり,日本語通訳には電話やメールでその状況を伝え緊急さを理解してもらっていても,その日本語通訳以降の担当者にはまったくその状況は理解してもらえていないということだ。

気を利かせて,日本人設計者の訪問のために事前準備をしておいてくれることはなく,いざ訪問しても「さて,何をしましょうか?」といった感じから始まるのである。それは私たち日本人設計者が日本語通訳にしか情報を伝えていないことと,中国人特有のあまり他人の業務にはかかわらないという国民性が原因となっている(図1)。

図1  設計者の緊急さが伝わらないので,事前準備の内容を明確に伝えておく必要がある(イラスト:小林恵子)

もう一つの理由は,中国への訪問は近いといっても海外出張であり費用の面から何回でも行き来できるものではない。東京から上海までを飛行機で往復する場合,緊急で日程を選べなかったとすると正規料金で15万円以上するときがある。新幹線のような気軽さはない。よって決められた期限内に効率良く業務をこなす必要があるのだ。

事前準備の内容

事前準備の内容は,扱っている製品や部品と不良の内容によって大きく異なってくる。よって筆者の過去の例や一般的な事例でお伝えする。

(1)出荷数・在庫の確認

(2)文書の入手
・QC工程表・専用図面(部品メーカー作成図面)・作業標準書・検査標準書

(3)かかわる企業情報の入手
・各工程の作業が社内か外注先か・材料や組立部品の入手先

(4)原因究明のための準備
・製造ライン・装置,治具・作業者・部品や材料

出荷数・在庫の確認

出荷数・在庫の確認は,不良品が発生したとしても何らかの都合で良品が在庫として残っている場合がある。つまり,良品がなくなる時期を把握しておき,いつまでに対策を講じれば良いかの期限を決めるために必要である。

文書の入手

QC工程表の入手は,もちろん工程の把握のためである。不良の原因はどこの工程にあるかわからない場合が多い。よって,まず現在の書面上ではどのような工程であるかの把握が必要である。後述する文書においても同様であるが,これらの文書に記載されている内容が,お互いの企業同士の取決め内容なのだ。つまり,書かれていない内容を見つけたらそれはイレギュラーな作業であったり,お互いにあいまいにしたまま量産に至ってしまった作業であったりすることになる。

その後,QC工程表と実際の製造ラインの相違を確認する。量産が始まってからある装置などに問題が発生して,その問題に対処するため暫定的に工程を追加しているにもかかわらず,その連絡をしていないことはよくある(図2)。またある工程を外注に出していて,その外注先を勝手に変更している場合もある。これらはどちらも4M変更にあたり,本来は変更する前に設計者に連絡がくるべきものであるが,実情はこない場合が多い。

図2  設計者に連絡なしで,QC工程表と違う内容に変更になっていることはよくある

筆者は中国駐在中にどちらも経験している。中国人は個人の判断をとても重要視するので,ある変更を加えたとしても波及する問題はないと個人で判断をすれば,あえて連絡はしない。問題が起こるか起こらないかわからないから,何か変更が必要であれば必ず事前に連絡をして不良を予防するという4M変更の趣旨は,なかなか中国人には理解されないのである。

専用図面とは,日本の設計者が作成した図面を元に,部品メーカーが検査用に新たに作成した図面などのことである。設計者の作成した図面と相違がないこと,あるいは設計者の意図に反した測定方法になっていないことを確認する。

作業標準書と検査標準書は,不良の原因がありそうな箇所の作業内容が,お互いの取決めではどのようになっていたかを確認するために必要である。これはあくまでも量産開始前に作業内容をどのように取決めたかを再確認するものであるが,不良発生時の確認で初めて作業内容を知る場合がある。そのような設計者には問題があるとはいえ,不良が発生しても仕方がない。作業標準書の確認方法は後述する。

かかわる企業情報の入手

QC工程表に記載された各工程が,社内で作業されているか,外注先で作業されているかを確認する。もし,問題の発生原因と想定される工程が外注先にあれば,外注先を訪問すべきである。

不良の原因の多くは外注先で発生する。理由は外注先の選定が部品メーカーに一任された場合,設計者が訪問することもないため,管理が行き届いていないからである。特に中国では国民性の影響もあり,外注先が放任状態になっている傾向が強い。モノづくりにおいて「どこ」で「どのように」つくられているかを,その部品にかかわる設計者が把握しておくことは基本であり,特に中国においては必須と言える。

材料の入手先に関しても,上述の内容と同じである。材料の入手も工程の一部と言えるので,しっかりと把握しておく必要がある。これを怠ったために不良品が発生して大問題になった実例を第5回(2019年11月号)で紹介しているので参照してほしい。

原因究明のための準備

不良の原因がすでに判明してからの訪問であれば少しは気が楽であるが,部品メーカーで原因究明から始めなければならないとなると,とても大変である。

製造ラインの全工程を確認したいときは,部品の製造を行っている時期でなければ難しい。原因究明のためだけに製造ラインを稼働させてもらうわけにはいかない。製造ラインのすべての工程を確認する必要のない場合,例えば成形機だけ,もしくは塗装設備だけ稼働してもらえば良い。そのための作業者の確保も必要だ。またその作業で部品や材料が必要であれば,それらの確保も必要である。切削加工で使用する治具だけ確認したい場合は,逆に切削加工機が稼働していては確認ができない。切削加工機を停止して治具を取り外しておいてもらう必要がある。

これらは原因を究明する担当者のやり方次第なので,訪問前にしっかりと準備のための依頼内容を伝えておく必要がある。日本語通訳が気を利かせて準備しておいてくれるようなことを絶対に期待してはならない。

原因究明の方法

ここまでお伝えしてきた事前準備の段階で,実はかなりの原因究明が進んできていると言える。筆者の経験してきた不良は,その原因が部品メーカーの意図的なものであったことはほとんどない。

例えば材料名を偽装して意図的に別の材料を使用するなどのことである。ほとんどの不良は,部品メーカーの担当者や作業者が勝手に何かを変更したにもかかわらず,それを誰にも連絡しなかったことによるものである。意図的行為による不良は部品メーカーが原因を隠すので,原因究明は困難である。本稿ではそういった意図的行為によるものではなく,4M変更があったにもかかわらずそれを連絡しなかったために発生した不良の原因究明に関してお伝えする。よって,事前準備(2),(3)の段階でかなりの情報が得られ,なかには原因究明ができてしまうものもある。

ここからは,事前準備の段階で原因究明に至らなかった不良に関して,筆者が行ってきた一般的な原因究明の方法を3つお伝えする。①治具の確認,②手作業の確認,③装置の設定値の確認である。

治具の確認

筆者がたいてい最初に確認するものは,治具の不具合である。理由は量産前に確認をしていなかった場合や,量産が始まってから新たに導入された治具があるからだ。治具の不具合の確認方法はその詳細を第8回(2020年2月号)でお伝えしているので,そちらを参照してほしい。

治具の不具合の確認以外には,その治具の操作方法や操作順の確認がある。治具のほとんどは新規の手づくり品であるため,その操作方法や操作順は決まっていない。もちろん説明書などもない。作業標準書には,治具に部品がすでに固定され作業をしている状態の写真とその説明文が記載されているだけのものが多い。つまり,やや複雑な治具になると,その操作方法や操作順は作業者に一任されている部分も多くあるのだ。筆者は過去に「モニター保護パネル反り測定治具」を作製したことがある。これは操作方法や操作順を間違えると適切な測定ができないことがあった(図3)。

図3  操作方法や操作順を間違えると適切な測定ができない治具

治具の操作方法や操作順も作業標準書に記載する必要がある。操作順については治具の本体に番号が振ってあるとなお良い。よって治具は作業標準書と併せて確認をしてほしい。

手作業の確認

手作業は極力なくしたいものであるが,完全になくすことは無理な場合が多い。手作業は内容によっては作業方法と作業順が幾通りもあり,作業者のその時々の判断や,作業者の入替りで変わってしまったりする。よって手作業の作業方法と作業順の確認はとても重要となる。まずは作業標準書と併せて確認を行う。そして作業標準書に詳細が記載されていない作業は,ほかにどういう作業方法と作業順があるか,自分で作業して確認してみる。別の作業方法や作業順がありそうであれば,それが不良の原因になりやすい(図4)。

図4  手作業は自由度が大きく,不良の原因になりやすい(イラスト:小林恵子)

中国ではこの自由度の大きい手作業が不良の原因になっていることが多い。作業方法と作業順を作業標準書で確認をしたり,前任者に聞く,後任者に伝えたりすることはあまりしたがらず,自分の判断で作業方法と作業順を決めてしまうのである。

装置の設定値の確認

装置の設定値が特に決められていない,また作業者の経験値に頼っている,もしくは作業者のメモとして保管してあるなどの場合がある。装置の設定値は作業標準書に明確に記載すべきである。樹脂の成形機の成形条件などは設定項目が多く専用の成形条件表があるので,もちろんそれに記載してあれば問題ない。

板金のスポット溶接機には,加圧力・電流値・通電時間などの設定値が必要である。それらをスポット溶接機にインプットして使うため,それらの設定値が作業標準書に記載されていれば良い。しかしそれ以外にも,電極チップの交換タイミングもある。先端が黒くなったら交換とか,先端形状が丸くなったら交換するという感覚的な判断に頼る板金メーカーもあるが,スポット溶接機のカウンターの回数で交換タイミングを規定している板金メーカーもある。作業者個人の判断が重要視されがちな中国の場合は,感覚的な判断は不良が発生する原因になるので後者にすべきである。(機械設計2020年7月特別増大号より一部抜粋)

<著者>
ロジ 小田 淳(おだ あつし)
中国モノづくりの進め方コンサルタント。ソニーに29 年間在籍し,プロジェクターなど合計15 モデルを製品化。駐在を含む7 年間,中国でモノづくりを行う。中国での不良品や業務上のトラブルの発生原因が日本人にもあることに気付き,それらの具体的な対処方法を研修やコンサルで伝える。

<販売サイト>
Amazon
Rakutenブックス
Yahoo!ショッピング
日刊工業新聞ブックストア

<雑誌紹介>
【特集】設計者CAEの実践ポイントと製品トレンド

設計者CAEツールの登場により、概念設計の段階で設計者が自らCAEを用いて、モデル作成→解析→評価のサイクルを回すことが可能になり、設計や開発にかかる工数や費用などの削減に寄与しています。一方、ツールや利用環境を揃えたり、設計者に操作のためのスキルを身に付けさせたり、解析手法やワークフローなどを整えたりするには課題も多く、活用が進まないケースが多いのも現状です。
 そこで本特集では、設計者CAEをうまく活用するうえでの導入段階における考え方から、メリットを引き出すポイント、スキルアップの仕方などを解説するとともに、各社CAE製品の最新機能を紹介します。

雑誌名:機械設計2020年7月特別増大号
判型:B5判
税込み価格:2,035円

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