ニュースイッチ

便秘や下痢など体質改善に!腸内フローラ、そのカギを握る「CR」とは?

おすすめ本の抜粋「おもしろサイエンス 腸内フローラの科学」

コロナイゼーションレジスタンスのおかげで腸内バランスが保たれる

腸内フローラというきわめて複雑多様な微生物生態系の恒常性は、どのように保たれているのでしょうか。その答えはほとんど解明されていません。

この恒常性を理解するための考え方として、「コロナイゼーションレジスタンス(CR:colonization resistance)」が提唱されています。すなわち、異なる腸内細菌群相互の自律的なバランス維持機構です。これは、食べ物などを通じて周囲の環境から腸内に侵入するさまざまな微生物が、むやみに腸内に定着するのを防ぐシステムと理解されています。

腸内フローラの恒常性は栄養の偏り、高齢化、感染、医療的措置などにより崩され、下痢や便秘などさまざまな症状や疾患が誘導されます。このCR という機構は、健常な成人は比較的タフで、多少の揺動因子で一過的に腸内フローラの異常(学術的にはディスビオーシスと呼ぶ)が起きても、通常状態に戻す復元力(レジリエンス)を持っています。

健常成人とは異なり、生体防御能の脆弱な低出生体重児(出生時の体重が2500g 未満)はCR が不完全な状態のため、腸管に侵入した日和見病原菌による感染症に至る危険性が高いことが知られています。そこで、臨床ではこれを未然に防ぐ目的で、生後早期の低出生体重児にビフィズス菌(プロバイオティクス)を腸内に投与しています。

この場合、腸に送り込まれたビフィズス菌が不完全な腸内フローラのCR を補完するように、一時的に腸管内に定着して酢酸や乳酸など有機酸を産生します。これにより、日和見病原菌の腸内増殖を阻止し、腸管上皮のバリア機能を改善して日和見菌の体内侵襲を防ぐことで、新生児を日和見菌による感染症から守ると考えられています。もちろん、投与されるビフィズス菌も生菌ですから、それ自身が児の健康に問題を起こさないような注意を持って実施されています。

慶應義塾大学の金倫基教授らは、新生児マウスの腸内嫌気性菌の一部(嫌気性のクロストリジウム菌群)に、サルモネラ菌やシトロバクター菌など腸管病原菌の腸内増殖や感染症を阻害する作用があることを報告しています 。週令が進んだマウスや成熟マウスの腸内細菌ではこの作用が消失することから、生後早期の正常な腸内フローラ構築に基づくCR が重要です。

もちろん、成人においてもCR の意義は大きいです。図に示したように、腸内の日和見病原菌であるディフィシル菌(Clostridium difficile)の異常増殖を伴う抗生物質誘導下痢症(CDAD)では、抗生剤の投与でCR 能が著しく低下した患者の腸内に、健常者の便微生物を移植すること(便微生物移植:FMT)で症状が顕著に改善されることが報告されています。FMT が有効性を発揮するために、移植された健常者の腸内微生物群がCDAD 患者腸内フローラのCR の破綻を補完することが重要と考えられています。

ちなみに、CDADにおけるFMTの有効性について、数々の臨床試験により再現性が示されています。一方で、慢性炎症性腸疾患、肥満および糖尿病などの疾患についてもFMTが検討されていますが、現状では一般的な治療段階に至っていません。

CR を司るメカニズムは、不明な点がまだ多く残っています。腸内微生物の栄養源でもある食事や、腸内微生物間の互助作用、宿主である私たちの免疫機構との相互関係など、多くの因子が関わっていると考えられています。
(「おもしろサイエンス 腸内フローラの本」より一部抜粋)

<販売サイト>
Amazon
Rakutenブックス
日刊工業新聞ブックストア
<書籍紹介>

人間の腸管内で増殖を続ける微生物群集は「腸内フローラ」と呼ばれている。私たちの健康に深く関わる腸内フローラの知られざる面白話をやさしく紹介。腸内環境を整える有益な生理作用から病原菌や生活習慣病など疾病の発生まで、メカニズムや機能に迫る。

書名:おもしろサイエンス 腸内フローラの本
編著者名:野本康二
判型:A5判
総頁数:160頁
税込み価格:1,760円

<執筆者>
野本康二(のもと こうじ)

1954年東京都生まれ。1979年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年、株式会社ヤクルト本社入社。2017年退社。同年、東京農業大学生命科学部分子微生物学科動物共生微生物学研究室教授に就任。2005年から順天堂大学客員教授。一貫して、腸内細菌およびプロバイオティクスの健康に果たす役割に関する研究に従事する。獣医師、薬学博士。


<目次(一部抜粋)>
第1章 腸内フローラって何?
腸内フローラとは?/見えない細菌を拡大して観察することから始まった/食道・胃・十二指腸に生息するフローラ/大腸(下部消化管)フローラの役割/成長・加齢に伴う腸内フローラの変化/動物(哺乳類)の腸内フローラはどうなっている?

第2章 腸内フローラはどこで、どのように存在する?
腸内フローラは安定している?/コロナイゼーションレジスタンスのおかげで腸内バランスが保たれる/地域による腸内フローラの違い/腸内フローラの栄養となる食物繊維/オリゴ糖、プレバイオティクス、レジスタントスターチは腸内フローラの強力な援軍

第3章 いろいろな疾患と腸内フローラとの関わり
肥満と腸内フローラの知られざる関係/腸内フローラは生活習慣病にも大きく関与/腸の病気を誘発する腸内フローラ異常/アレルギーなど免疫疾患も引き起こす/腸内フローラが及ぼす脳への影響

第4章 プロバイオティクスは腸内環境を改善するミカタ
プロバイオティクスは何をしてくれるの?/生児・小児科治療で期待されるプロバイオティクスの効果/レルギーの軽減・抑制にも確かな効果がある/然注目されるがん予防への可能性/用菌の機能をさらに高めるシンバイオティクス

第5章 腸内フローラを構成する細菌群を知ろう
ビフィズス菌の機能と特徴/ヒトの腸内細菌の5%を占めるアッカーマンシア・ムシニフィラ菌/善悪取り混ぜ最も馴染みが深い大腸菌/私たちの食生活に欠かせない乳酸菌/免疫機能が低下すると感染症を起こす日和見感染菌

第6章 どうなる?腸内フローラ/プロバイオティクス研究の今後
適切な方法に基づいて実施された臨床研究から得られる確かな証拠/臨床効果を説明する作用メカニズムとは?/常在腸内細菌の潜在力を知る/安全性の確保が一番

【おもしろサイエンスシリーズをどっさり紹介】
さまざまな角度から地球を捉えた『火山の科学』『地形の科学』、染色家による『天然染料の科学』、身体のメカニズムを知る『もの忘れと記憶の科学』、身近で不思議『小麦粉の科学』など、知的好奇心を満たす一冊が見つかると思います。
■おもしろサイエンス シリーズ■ 科学は、理屈がわかって初めておもしろい!

編集部のおすすめ