安川電機、社長悲願のデジタル経営で次のステージへ
新たな成長へ出発の年
新型コロナウイルス感染症による移動の制限は、企業活動に大きな影響を与える。特にグローバル企業は深刻だ。世界に広がる拠点の業務をどう管理し、効率化していくのか。そこで重要性を増しているのがデジタル変革(DX)。産業用ロボット大手の安川電機も独自の「YDX(安川DX)」を策定し、2020年度に本格始動した。小笠原浩社長にコロナ禍におけるDXの必要性などを聞いた。
―新型コロナの影響で、景気の不透明さが増しています。
「金融危機で資金の流れが滞ったリーマン・ショックと異なり、今回の新型コロナでは人、モノ、生産すべてに制限がかかった。夏場以降にもV字回復が期待されているが、難しいだろう。自動車販売が落ち込んでいるのも心配だ」
―ただ中国市場は回復に転じ、好調のようです。
「中国は第5世代通信(5G)の投資が旺盛だ。当社もサーボモーターを生産する瀋陽工場の5月の稼働率が200%と、2年前の水準に達している。ただロボットについては設置に人の移動が求められるため、まだ好調時の半分程度の生産にとどまっている」
―新型コロナは働き方や企業のあり方も変えましたが、安川電機ではちょうどYDXが本格始動しました。
「長期経営計画『2025年ビジョン』の達成とさらなる成長実現のため、デジタル経営を通じてグループの価値を最大化するのが目的だ。連結70社がバラバラに行っている見積もりや部品調達などを統一して無駄をなくす。経営をコックピット化し、現状をリアルタイムに把握する。また決算の準備を現在の1カ月から半減させるなどスピードを重視する。評価をデジタル化することで、働き方改革もさらに進める」
―新型コロナの影響でDX推進が加速したのでしょうか。
「違う。デジタル経営は15年前から考えていた。一部に不要論もあり時間がかかったが、16年に社長に就き、IoT(モノのインターネット)の進化で18年から取り組みを始めた。新型コロナが後押しした面はあるが、すでにデータのクラウド化も終えている。20年度はDX元年だ」
―DXでモノづくりの世界も変わると言われています。
「情報はあふれているが、その本質は業務変革だ。業務プロセスの標準化だけでなく、従業員の意識改革も大事で、我々がITに仕事を合わせることで企業の文化も変わる。世界中のデータを一元化して現場を見える化する。そうして生産性を向上させることで新たなビジネスモデルを生み出す」
【記者の目/YDX、転機の道しるべに】
生産現場の自動化コンセプト「アイキューブメカトロニクス」を提唱してきた小笠原社長にとって、デジタル経営実現は悲願といえる。日本経済は今、コロナ禍で低迷が危惧されているが、DXへの転換がピンチをチャンスに変える好機と捉えることはできないか。先導するYDXはその示唆に富んでいる。(北九州支局長・大神浩二)