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なぜフォントは「雑誌の声」なのか、社会課題とデザインの関係性

アクシスは、会社が設立された1981年にデザイン誌「AXIS」を創刊した。その5年後には、世界を代表するデザイン誌として広く知られるようになった。デザインは社会のあらゆる事象に関わることができ、「人々の生活と社会をより良いものへ変えていくことができる」というコンセプトの下、情報発信を続けている。

創刊当初の日本は「デザイン」という言葉そのものが、限定された分野で使われていた。しかし90年代に入ると、工業や建築、グラフィックといった以前からある領域だけでなく、その他の分野でもデザインという概念が使われるようになった。90年代半ば以降は情報産業などの発展に伴い、デザインのあり方や関連領域が広がっていく

そのころからAXISの役割に変化が生じてきた。これまでデザインがかかわっていなかった部分に、デザインがどのような形で関与できるのかという点を、問い始めたのだ。具体的にはモノづくりなどの既存領域だけではなく、サービス全般や街づくり、さらには少子高齢化や環境問題、災害対策などの社会課題に対して何ができるのかということを、追求していった。また、色や形の表現だけではなく、課題解決を図る手法としてもデザインが有効に働くという主張を展開していく。

世界中のデザインに関するさまざまな情報を発信するという誌面づくりのなかで、書体にもこだわるようになった。「フォントは雑誌の声である」という考えに基づき開発されたのが、独自のAXISフォント(開発はタイププロジェクト社)だ。

以前はさまざまな書体を和欧混植で組んでいたが調整に手間がかかり、和文と欧文でトーンのずれが出てくる問題が生じていた。このため優れた可読性を備えながら、より統一感を出すために新フォントが開発された。その後、フォント自体の販売も開始し多くのユーザーに支持されている。

AXISは社会問題を解決するに当たり、デザインが重要な役割を果たすとの考えを示してきた。細部まで行き届いた表現とともに、誌面コンセプトがさらに進化することに期待が高まる。

(文=松田雅史・デロイトトーマツベンチャーサポートMorningPitch・新規事業開発ユニット)
日刊工業新聞2020年6月19日

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