社会課題を空間デザインで解決する100年企業、事例から見るその考え方とは?
約130年の歴史を誇る乃村工藝社は大正時代、菊人形を活用した「段返し」という演出装置を国技館で手掛け話題を集めた。ディスプレーの先駆けとなる大胆な発想と挑戦力は歳月を経て発展を遂げ、現在は商業施設やホテルから博覧会、博物館に至るまで、さまざまな空間の調査企画やデザイン設計、施工、運営に携わっている。
得意とするのは空間を軸にした課題解決だ。都内でマンション販売用ゲストサロンの開発プロジェクトに関わった同社のデザイナーである越膳(えちぜん)博明氏は現代人特有の多様な価値観に対応。マンション購入者以外の入り口を思考し人と人、人ともの、人と情報という3要素が交差する新たな機能と可能性を追求。最適な集客貢献と空間創造を両立する方策を編み出した。
具体的には地域とのつながりという社会課題に向き合うため、施設の活用を目的としたコミュニティーの醸成という手法を取り入れた。着想の原点は昔ながらの家屋で、懐かしさやコミュニティー形成の記憶である「土間・居間・縁側」といったスペースを導入。施設全体を閉じるのではなく、地域に開き住民や情報が集い、その地域の魅力を発信する場にした。
また、「これまで住んでいた人」や「これから住むであろう人」を可視化したデザイン体験やワークショップが地域コミュニティーの希薄化という課題解決の糸口になっていくのではと想定。来場者体験のストーリーづくりを通じ、「利用する人=マンション購入を考えている人」「利用しない人=マンション購入を考えていない人」が接点を持つことによる価値を追求するため、細部にわたって違和感のない空間づくりを進めていった。
1階にはコミュニケーションサロン、2階にギャラリーを備えたゲストサロンを設置。建物の正面につながる土間は誰もが自由に出入りできるようにした。また、体験を可視化するため、屋外と屋内の中間的な役割を果たすように視覚的に広くして、人が自然と集まる井戸端会議を誘発したほか、地域の情報が得られる作業場として利用された。この仕事を通じ、従来の価値観を現在の価値観へとシフトさせる事業の基盤が厚みを増した。(秋山浩一郎・デロイトトーマツベンチャーサポート第4ユニット)