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苦境の日産、内田社長の言葉はステークホルダーに届いたか

苦境の日産、内田社長の言葉はステークホルダーに届いたか

日産の内田社長

日産自動車が経営再建に踏み出す。カギを握るのは、仏ルノー、三菱自動車との3社連携と北米事業の行方。“日産らしさ”を取り戻すには、選択と集中をやり切る覚悟が必要だ。日産の2020年3月期連結決算の当期損益は6712億円の赤字と、20年前の経営危機時に迫る厳しい結果となった。

新車投入の遅れや販売政策の失敗で、生産能力と販売実績に大きな乖離(かいり)が生じ、採算悪化に歯止めがかからない。数年前から改革の必要性は指摘されていたが、不十分なままだった。新型コロナウイルス感染症による世界市場の縮小は、同社に改革の断行を迫るきっかけとなった。

内田誠社長は「この状況で利益を出すのは到底困難。これまで向き合ってこなかった失敗を認め、正しい軌道に修正する」とし、インドネシア工場閉鎖や、スペイン工場閉鎖への協議開始など「一切の妥協なく(構造改革を)断行する」決意を語った。

歴代トップが目を背けてきた課題を直視し、取り組もうとする姿勢は評価できる。一時身をかがめた後に新たな成長へと転じる戦略が重要になる。日産の強みである電動化技術と自動運転などの先進技術への投資は惜しむべきではない。

連携するルノーも厳しい経営環境にある。前経営陣時にこじれたルノーとの資本関係のあり方を一時棚上げし、純粋に生き残りへ真摯(しんし)な話し合いができたことは、先行きに光明となった。今後三菱自と3社で、開発・生産・販売の責任体制を明確にし、協業関係を再構築する。

北米市場の建て直しも、経営の行方を左右する。安値販売でブランド価値を毀損(きそん)した現状の打開には、魅力ある新車投入と販売店との関係修復が欠かせない。

生産能力や車種の削減はサプライヤーに痛みをもたらす。方針を率直に示し、サプライヤーとともに改革を断行する共存関係を重視してもらいたい。「必ず成長軌道にのせる」という内田社長の言葉は、従業員や投資家、取引先などステークホルダーにも届いたはずだ。再生を見守りたい。

日刊工業新聞2020年6月1日

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