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使い方は多種多様! 株主優待の「今」を知ろう

おすすめ本の抜粋「新版 イチから知る!IR実務」

広がる株主優待

株主優待は、一定以上の株式を保有する株主が配当以外に受けられる何らかのサービスで、上場会社のすべてが実施しているわけではありません。法的な制限もなく、制度の導入は各社に委ねられていることもあり、実施企業は株主にいろいろ喜んでもらえるように工夫を凝らし、自社製品や贈答品、割引券や商品券など内容も充実するなどバラエティに富んでいます。

少し時間を巻き戻すと、株主優待の実施企業は1992年に251社で、当時の全上場会社の9.5%でした。1998年には511社(15.4%)、2002年には731社となり、全上場会社の20.0%を占めるに至りました。ここまでの10年で実施企業は3倍近い増加です。(数字は野村IRの調査による。以下同じ)

2005年の調査で、こうした株主優待を意識した投資家は、個人投資家の4分の1を占め、①投資先の選択で株主優待を重視する、②長期投資を念頭に置く、③株式投資は企業のことを深く理解して行う、④幅広い銘柄への分散投資を行うような傾向を持つと指摘されたのです。長期保有の個人株主は株価を下支えする役割を期待できるとも言われ、各社の取り組みにも力が入ります。

そして株主優待の実施企業は、2006年には1,009社となり、全上場会社の25%を超え、10年後の2015年には1,267社で32.6%、2019年10月末には1,536社と全上場会社4,125社37.2%となり、ほぼ4割に達しました。株主優待は株主とのコミュニケーション・ツールです。株主優待の内容も、飲食料品、食事券、買い物・プリペイドカード、日曜・家電品、交通・旅行・宿泊券、ファッションなど生活のさまざまなシーンで利用できる豊かなバリエーションを備えています。
 その勢いは法人株主も株主優待のサービスを得られる例が出るほどで、ビールやトイなどの株主限定商品に対する反響は大きく、さらに社会福祉や環境基金などへの寄付を選択肢として設ける「社会貢献」を取り入れた優待サービスが174 社も登場するなど、投資家1人ひとりに身近な存在になってきました。
 今では、多数の金券ショップに株主優待券が並び、その相場が新聞の記事に引用されるほど一般的なものとなっています。

株主優待実施企業の推移

これほどの浸透ぶりに、株式投資に回す少額の資金で、毎月銘柄を乗り換えて優待を楽しむという個人投資家も多く登場します。株主優待の権利を確定する割当基準日に、株主として登録されると早々に株式を売却する動きから、株価が下落する恐れもあります。実際に3月、9月の割当基準日の前後に、「お得な」優待企業でこうした優待の権利をめぐる株価の変動が市場の注目を集めています。

他方、こうした株主優待の恩恵を受けない機関投資家から、「優待に回す金があるなら配当に回せ」との議論もあります。日本の機関投資家はどうしているのでしょう。投資信託協会は「定款祖規則集」に定めがあります。「換金可能なものに、航空会社の株主優待券があります。これは、3月、9月末にそれぞれ受託銀行に株主優待券の枚数を確認した後、換金を指示します。受託銀行では、流通市場で換金してから信託財産に入金処理をしています。

ただし、すべての株主優待券を換金しているとは限りません」と信託銀行業界の関係者が語っています。そして、「厚生年金基金連合会からガイダンスが出ているはずです。確か株主優待物の処理は、社内規定により換金対象の基準やファンド間の配分ルールを明確にすることが決まっているはずです」と投資顧問の関係者も語ります。

また「厚生年金基金 受託者責任ハンドブック(運用機関編)」は、「資産管理機関(広義の運用機関のうち資産業務を行う信託銀行、生命保険会社を言う)は、株主優待物のうち換金性のあるものは換金し基金のファンドに(合同運用の場合は一定のルールに従い)入金すべきであり、その処分ルールを明確にすべきである」として、「株主優待物の処理方法については恣意的な取り扱いを回避するために、社内規定などにより換金対象の基準(換金の容易性や可能性、譲渡・転売の禁止の有無など)、ファンド間の配分ルールなどを明確にする」と明記されています。

これほどまでに優待サービスが広がる一方で、ときとして株主に利用されないケースも少なくありません。機関投資家や証券会社の中には、株主優待を使い切れず、受け取りを辞退したり、廃棄したりする場合もあるようです。以前から、そのような未使用の株主優待サービスを何か社会的に意義のある利用できないか、という声が聞かれます。

2019年4月、日本証券業協会は「株主優待SDGs基金」を設立しました。会員の証券会社が不要で利用しない優待を換金し、基金を通じてWFP(国連世界食糧計画)などSDGs関係団体に届けられる仕組みです。株主優待カタログに「株主優待SDGs基金」を組み入れた会員の証券会社もあります。同年12月、協会は証券会社とNPO法人などが登録するサイトを立ち上げました。寄付を行う証券会社は、ニーズに合った寄付先を簡単に見つけられるわけです。(「新版 イチから知る!IR実務」より一部抜粋)

<書籍紹介>
 多くの欧米企業は、日本企業の今後のIR展開を先取りした文字通り「IR実学」を実践している。本書はそうした事例を多数紹介するとともに、準備リストや週・月次業務レポートのほか有価証券報告書や統合報告書作成のポイントなど企業のIR活動の全容を詳述する。

書名:新版 イチから知る!IR実務
著者名:米山 徹幸 著
判型:A5判
総頁数:240頁
税込み価格:2,420円

<著者>
米山 徹幸(よねやま てつゆき)
1948年生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科修了。81年大和証券(国際本部)に入社後、ロンドン、パリなどに勤務。大和インベスター・リレーションズ、大和総研・経営戦略研究所を経て、2010年より埼玉学園大学経済経営学部/大学院経営学研究科教授。2017年から同客員教授(現任)。埼玉大学大学院客員教授(2006~13年)。全米IR協会(NIRI)会員、政策科学学会理事、IR学会評議員。
 <主な著書>
『大買収時代の企業情報』(朝日新聞社) 『個人投資家と証券市場のあり方―証券市場の健全な発展のために』(共著 中央経済社) 『広辞苑〔第6版〕』(共同執筆、岩波書店) 『21世紀の企業情報開示』(社会評論社) 『イチから知る!フェア・ディスクロージャー・ルール』(金融財政事情研究会)など。

<販売サイト>
Amazon
Rakuten ブックス
Yahoo!ショッピング
日刊工業新聞ブックストア

<目次(一部抜粋)>
第1章 IRの始まりと仕事
(IRの始まりを知ってビジネスの原点を押さえる)
1.IRの役割
2.エンロン、サブプライム事件に学ぶ

第2章 IR部門の仕事を知ろう(Ⅰ)
(IR担当者の社内向け仕事を知る)
1.IR活動はどの部署に属するか
2.情報開示方針(ディスクロージャー・ポリシー)の作成
3.IR業務レポートの作成

第3章 IR部門の仕事を知ろう(Ⅱ)
(社外向けIR情報の仕事を知る)
1.有価証券報告書
2.決算短信
3.事業報告と株主通信
4. 英文の決算プレスリリース ~NIRI:「四半期決算発表のガイドライン」に学ぶ~
5.アニュアルレポート
6.IRサイト
7.ソーシャルメディア

第4章 IR情報を届ける相手を知ろう
(IR情報の相手は誰か。それぞれに企業情報の見方も違う)
1.アナリスト
2.機関投資家
3.個人投資家

第5章 プレゼンテーション
(プレゼンテーションはいつも初めての気持ちで)

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