「フリーアドレス」の働き方を実践するのは家具の上
フリーアドレス、“壁”壊す
働き方を変えるには、働く場所を変えればよいかもしれない―。山岸製作所(金沢市、山岸晋作社長、076・252・5121)は、オフィス家具の販売やレイアウトプランニングという本業を生かして、働き方改革にアプローチしている。山岸社長は「働き方を実践するのは家具の上」と強調する。働き方が決まると、それに従って家具も決まる。(金沢支局長・本荘昌宏)
山岸製作所は2017年12月に外部への公開を前提にオフィスを改装し、「リシェーナ」と命名した。取り扱うオフィス家具のショールームとしてだけではなく、社員が実際に働いている姿すらオープンにしている。公開から2年間に約600社、1300人以上が見学に訪れている。
もともと自社オフィスも他社と同じく部門ごとに対向して並ぶ社員の机に対し、上長の机が垂直に接する典型的な「島式」のレイアウトだった。特にOA機器の性能を生かす点で「かつては合理性があった配置」(山岸社長)だ。しかし、部門間の交流を物理的に阻害する「機能性」を持ってしまうオフィスは、限られた人員で生産性を最大化する必要がある時代に合わなくなっていた。オフィスの改装は自らの働き方を転換するための必然的な取り組みだった。
まず部門間の壁をなくし社内のコミュニケーションを活性化するためにフリーアドレス化は必須だった。スマートフォンやタブレット端末の活用を大前提として、問題は島式の普及を決定づけたプリンターへの依存の排除だった。つまりフリーアドレス化とペーパーレス化は不可分の関係と言える。そこでルールを決め、小型のロッカーに収まるように不要な書類を捨てた。結果として紙の量を従来比で46%削減できた。
同時にチームワーク深化のため共同作業支援ソフト(グループウェア)や、クラウドサービスなどを活用して情報や資料の共有を進めている。これにより残業時間を8%減らせた。個人商店の集まりだった社風も変化。「チーム作業を増やし、個人作業は効率化する」(同)という方向性が定まった。
外部の注目が高まる中、注文の内容も変化してきている。これまではレイアウトを描くことから仕事が始まるケースが大半だったが、「オフィスのコンセプトづくりから受注する案件も増えている」(同)。特にフリーアドレス化への関心は高く、これまで11社を手がけた。アンケートを実施したところ、うち8社がフリーアドレス化を「成功」と評価。同社は成功するためには社内に「旗振り役がいることが大事」(同)としている。
山岸社長は、かつて見積もりやカタログが散乱していた自社オフィスを「理念も何もない職場だった」と評する。オフィスは会社がどんな働き方をしていくのかという戦略に直結していると考える。「オフィスに経営理念が現れる」というわけだ。同社はオフィス改装を機に、事業を「モノ売り」から「コト売り」に転換。人材採用にも好影響が出ていると改装効果を強調する。