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オンライン教育はなぜ進まない?OECD最下位という日本の悲惨な現状

対GDP比の教育への公財政支出

コロナ渦は日本の教育分野におけるデジタル化の遅れを露呈した。国際的な日本の立ち位置や問題点はどこにあるのか。中央教育審議会会長も務める第一生命ホールディングスの渡辺光一郎会長の提言(※昨年12月に日刊工業新聞に掲載)。

後悔しないICT投資を

現実は劣後

教育にはインフラ整備が欠かせない。中でもデジタル化社会を見据えたときに不可欠なのが、ICT環境の構築だ。日本は教育分野でのICT環境で諸外国に先行している印象を抱いている人もいるかもしれない。しかしながら、現実は大きく劣後している。

例えば、経済協力開発機構(OECD)の調査では、学校の授業でパソコンなどを活用する割合がOECD加盟国で最下位になっている。学校外でパソコンなどを使って宿題を「毎日」「ほぼ毎日」する生徒の割合も日本は計3%で、加盟国平均の22%を下回る。

その原因の一つは学校でのパソコンの普及率の低さだろう。佐賀県では平均して児童生徒1・8人に1台だが、愛知県は7・5人に1台。デジタル教育を本格化するにも地域格差が大きく、学校で使うパソコンが児童・生徒に十分に行き渡っていない。

未来への準備

政府はこのほど経済対策の目玉として、小中学校で「パソコンは1人1台」とすることを決めた。ソサエティー5・0時代はデジタル革新を担う人づくりが基本だけに、大きな前進になるのは間違いない。ただ、環境整備のスピードをもう一段、二段上げなければならない。ICT整備が進めば遠隔教育による先進的な教育の実施や、教師の授業支援、負担軽減による働き方改革にもつながる。

諸外国はこの分野への投資を積極化している。中国は教育のICT環境整備に4兆円を投じていると言われている。絶対値そのものの比較に意味はないかもしれないが、国内総生産(GDP)に対する比率でも日本は低い。教育への公財政支出の対GDP比はOECD平均を下回るどころか最下位だ。

教育への投資効果は遅効性があるために見極めが難しい。今の取り組みが10年後、20年後に実を結ぶ時もあれば、時すでに遅しとなる場合もある。あの時、取り組んで良かったとなるか、取り組みが弱かったと悔いることになるのか。今の日本の教育改革は後から振り返ったときに、非常に重要な局面にある。後悔しないためにも、教育を通じた人づくりへの投資を政府、企業ともにこれまで以上に重きをおくべきだ。

今やらねば!

「変化は摩擦を生み、摩擦は進歩を生む」。私の座右の銘だ。着手し始めた改革は、もしかしたら大きな摩擦を生むかもしれない。しかしながら、「平成の30年」で海外諸国の背中が遠くなってしまった今、我々に立ち止まる余裕はない。世界はもう待ってくれないことを自覚しなければならない。

日刊工業新聞2019年12月27日

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