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「500万台」体制へリストラを覚悟する日産、最後はアライアンスの見直しか

「500万台」体制へリストラを覚悟する日産、最後はアライアンスの見直しか

年500万台の販売を基本にリストラを進める計画の日産(内田誠社長)

日産自動車が28日に発表予定の中期経営計画の策定が大詰めを迎えている。足元では悪化を続ける業績に新型コロナウイルスの感染拡大の影響が直撃。2020年3月期連結業績予想で当期損益が赤字に転落する見通しとなった。ただこの予想には現在策定する中計に伴う構造改革関連費用は含まれておらず、赤字幅のさらなる拡大も見込まれる。コロナ影響で需要が縮むなか、中長期でどのような業績回復の道筋を描くのかが注目される。

日産は4月28日に20年3月期連結業績予想で、これまで850億円の黒字を見込んでいた営業損益が最大1300億円程度下振れし、約450億円の赤字に転落する見通しを発表した。うち新型コロナに伴う販売減などで約900億円の悪化影響を見込んだ。また650億円の黒字を見込んでいた当期損益も最大1600億円程度悪化し、約950億円の赤字(前期は3191億円の黒字)に転落するとした。

同社は19年7月までに世界で約1万2500人の人員削減などを含む23年3月期までの中期経営計画をまとめ、構造改革を進めてきた。ただ米欧で想定を超える販売低迷が続き、20年3月期業績予想を2度にわたり下方修正。内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)は2月に「さらに一歩踏み込んだ固定費削減に着手している」とし、追加のリストラ策などを盛り込んだ新中計を5月にまとめる意向を示した。

現中計をまとめた19年7月時点の20年3月期の世界販売目標は554万台だったが、結果は前期比約1割減の493万台で着地した。日産関係者が以前に「世界販売500万台の自動車メーカーだと認識しなければならない」とした新中計策定の方向性が現実味を帯びる。現中計は23年3月期までに、世界で年産能力を660万台までに減らす目標を掲げたが、年500万台の販売規模で工場稼働率を高めるには、追加の能力削減が欠かせない。

追加策で注目されるのが仏ルノーや三菱自動車との企業連合(アライアンス)の活用。3社はこれまでに開発など分野ごとにリーダーを1社決め、他の2社を支援する「リーダー・フォロワー」戦略を表明。事業展開する地域では日産が日本、米国、中国市場を担う方向で調整する。

ルノーは4月に中国の東風汽車集団との合弁事業を解消し、同国での乗用車事業の縮小を表明した。販売低迷による採算悪化が要因とされるが、連合での選択と集中の影響も受けたとみられる。一方、日産は欧州の新車市場のシェアは3%前後で、販売力の弱さが課題。ルノーの事業基盤が厚い欧州では生産台数も低迷し、海外では日産のスペインの工場を段階的に縮小するとの報道もある。

アライアンスでは部品や車台の共通化をより一層進めるほか、電動化や自動運転といった将来技術の共同開発などにより、開発コストの削減や投資の効率化も見込まれる。

別の関係者はアライアンスについて「経済合理性を追求し、ウィン・ウィンの関係で進める」と基本姿勢を強調する。ただ合理化の過程では生産ラインの縮小など痛みを伴う改革に抵抗する動きも予想される。経営陣には改革を断行する実行力も求められる。

日刊工業新聞2020年5月8日
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
コロナ混乱を受け多くの社会が雇用防衛を謳う中で、どこまで本格的な構造改革を打ち出せるか注目する。「定時操業ベースの現在の生産能力が500万台で適正」と位置付けた内田経営体制が打ち出せる策は限られるように映る。そうはいっても、必要な営業レバレッジを得るためには数十万台規模の能力削減に踏み込むことは必要ではないか。能力削減もさることながら、大幅なホワイトカラー(開発・調達・管理)効率化も不可避の情勢か。そのためにもアライアンス進化は不可欠に見えるが、形骸化したアライアンスの資本関係の見直しも重要な議論として残る。

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