キリンと東大が目視サイズの合成に成功、高分子ゲルとは?
キリンホールディングス(HD)はポリマー材料をつくる独自の重合開始剤を使い、温度変化に応答する高分子ゲル(用語参照)の開発に、東京大学大学院との共同研究で成功した。これまで目視可能なサイズのゲルの合成は難しかったが、反応条件を特定し数ミリメートルサイズの材料を作製した。ゲル内部に機能性化合物を保持可能なほか、加温による体積収縮は従来の2倍ほどと大きいのが特徴。将来同技術をコンタクトレンズ、化粧品、細胞培養用材料などの新機能に応用できるという。
キリンHDは東京大学などと、プラス電荷を持つカチオン性重合開始剤を2018年に開発。同重合開始剤でモノマーをラジカル重合させると末端だけにカチオン基を持つ機能ポリマーやカチオン性粒子を合成できる。19年に抗菌性のポリスチレン樹脂を作製した。
この技術をヘルスサイエンス領域で展開するため、化粧品や医薬品などで使用される高分子ゲルに応用した。しかしそれまでナノ(10億分の1)メートルサイズの高分子ゲルしか作製できなかった。
そこで高機能医療材料の開発を専門とする東大院工学系研究科と共同研究を実施。共同研究ではモノマーにN―イソプロピルアクリルアミドを使い、反応温度や溶媒など特定の条件で重合させることで目視可能なサイズのゲルを合成できた。
このゲルの基礎評価を実施。ゲル内部がプラスの電荷を帯び、マイナス電荷の化合物を保持できることが分かった。さらに25度Cから36度Cへの温度変化で従来のゲルに比べ2倍もの体積収縮があるのも特徴。内部に保持した化合物や薬剤を温度変化で容易に放出が可能になるという。
今後、キリンは同技術で紙おむつに使われるポリアクリル酸や、コンタクトレンズ材料のポリメタクリル酸メチルの合成を試みる。キリンは中期経営計画でヘルスサイエンス事業を新たな成長の柱として育成している。
【用語】高分子ゲル=高分子同士を架橋して、3次元的な編み目構造をつくり、その内部に水などの溶媒を膨潤した材料。個体と液体の中間的な性質を併せ持つ物質。ゼリーや寒天のように高分子の結びつきの弱い「物理ゲル」と、吸水材やコンタクトレンズのように高分子を化学結合させた「化学ゲル」がある。