若者は“ビール離れ”なのに「クラフトビール」が成長する理由

  • 1
  • 1
クラフトビールは若者を中心に人気になっている(イメージ)

クラフトビールの存在感が増している。ビール類(ビール、発泡酒、第三のビール)市場は2019年もマイナス基調で、これで15年連続の減少になりそうだ。そんな中でクラフトビールは成長を続けており、キリンビールやサッポロビールといった大手メーカーもクラフトビールに市場活性化への期待を寄せて展開を強化している。まだまだビール類の中では1%ほどの存在だが、20年10月以降にはビール類の酒税が一本化に向け始動することも追い風に何倍にも拡大する余地がある。(取材=編集委員・井上雅太郎)

市場急拡大の可能性 定義拡大 存在感増す

クラフトビールは小規模醸造で個性的なビールを称する。日本では最低製造数量基準が下げられた1994年以降に小規模醸造所が「地ビール」として全国各地に広まった。現在、クラフトビールとして明確な定義があるわけではない。作り手の感性や創造性がつくり込まれたビールを指して呼ぶことが多い。18年4月の酒税法改正でビール定義が拡大し、原料にハーブ、フルーツ、スパイスなどが使用可能となったため、ビールづくりの多様性が広がった。

「(近い将来に)クラフトビールは市場の3―5%まで伸びる」と、磯崎功典キリンホールディングス社長は見通す。国内ビール市場におけるクラフトビールのシェアは1%ほど。小さな存在だが、巨大ビール市場を有する米国では今や約13%ものシェアに上り、金額ベースでは約24%を占める。

米国でクラフトビールがスタートした1965年からシェア1%に達した93年までに28年を要したが、日本では元年とされる94年から18年までの24年で1%に到達。米国より速いスピードで拡大している。それだけに先行きさらに急拡大する可能性がある。

選べる多様性魅力に 若者の飲酒スタイル合致

若者の「“ビール離れ”といった要因もあり、ビール類市場の縮小が続く中で、クラフトビールが堅調に伸びているのはなぜか。

「クラフトビールの魅力は多様性だ」と山田精二キリンビール企画部部長は指摘する。クラフトビールは「IPA(インディアン・ペール・エール)」「ヴァイツェン」「スタウト」など多くの種類があり、消費者が自分の好みの味わいを探し、選べる多様性がある。

ビールは1980年代に新商品競争があり、夏の飲み物から、冬にも昼にも、女性にもとターゲットを広げ市場を拡大していった。かつての若者はビールを“大人の登竜門”であるかのようにどんどん飲んだ。しかし近年、若者はお酒を選んで楽しむスタイルに変わった。ワイン、サワー、ハイボールなどの「RTD」と呼ばれる酒類が拡大し、ビールが構築した市場を削り取った。これが“ビール離れ”と呼ばれる現象だ。

今の20―30歳代の若者はビールをどんどん飲むというより、“ちびちび、だらだら”と飲むスタイルが定着しつつあるという。通常のビールではおいしくなくなってしまうが、クラフトビールは温度の変化で味の変化も楽しめるため、こうした飲み方にも合う。

また、クラフトビールが持つ社会的価値観も若者の意識をとらえる。もともと地ビールとして普及した経緯もあり、これらクラフトブルワリーはローカル(地元)を大切にしてきた。地元産の原料を積極的に使用することで地域活性化になる姿勢が若者の意識に刺さる。人気が高まる理由がここにもある。

20年10月に始まるビール類酒税一本化では26年10月までにビール類の酒税を段階的に統一する。ビールの酒税は350ミリリットル当たりで現状の77円から最終的に54・25円に下がるだけに、市場にとっては追い風だ。

キリンビール 専用ディスペンサー「飲みたい」に応える

キリンビールは2019年のクラフトビール市場を前年比1割増の約4万4000キロリットルと予測する。17、18年の成長率に比べ大幅な伸びを見込む。キリンがクラフトビールに力を注ぐのは、ビール市場の減速が強まる中で、クラフトを起爆剤に市場を再活性化する狙いがある。クラフトビールの人気が高まれば、「一番搾り」など本来のピルスナービールの美味しさも見直されるという。

ただ、クラフトビールの普及への課題について、「『飲みたい』という需要のボリュームに応える供給体制が整ってなかったこと」(山田部長)と指摘する。国内60万店の料飲店でワインが飲める店は5万店も検索でヒットするのに、クラフトビールは1万店ほどしかないのが実情だ。さらに消費者が手軽に飲めるようにグラス単位で提供することも必要だった。これらの課題を解決するためにキリンは専用のディスペンサー一つで4種のクラフトビールを提供する仕組み「タップ・マルシェ」を生み出した。

タップ・マルシェは1台で4種のクラフトビールを提供できる

タップ・マルシェは18年4月から全国展開を開始。料飲店に設置すれば提携する全国12ブルワリーの26種類のクラフトビールの中から店側が選んで提供することができる。18年の設置店数は全国7000店を超え、19年は1万3000店の目標をクリアできる見込みという。さらに2万―2万5000店規模に拡大を目指している。

サッポロビール ホップ育種・品種改良 個性的な香り商品に

サッポロビールは同社が開発した特徴的な香りのホップ「ソラチエース」を使用したビール「SORACHI1984」を19年に発売した。このホップは1984年に初登録したが当時はピルスナービール全盛の時代。独特の香りが市場に合わずに商品化できなかった。

個性的なホップを使ったビールの商品化に向け市場性を探る

その後、ソラチエースは米国に渡り、クラフトビールに使用されるようになった。米国でのクラフトビールのブームに乗り、ソラチエースにも火が付いた。このヒットでソラチエースは日本に里帰りする。「日本でもクラフトビール人気により、多様なフレーバーが求められるようになった。そしてついに自社で開発した国産ホップ『ソラチエース』を使ったビールを商品化できた」(同社広報室)と実に35年を経ての市場投入が実現した。

サッポロはソラチエース以外にもホップの育種・品種改良を積極的に行っている。これまでに10品種以上の個性的な香りのあるホップをつくり出した。今後はクラフトビールの人気に合わせ、これらの中から新たな商品化を目指す。

この一環でサッポロは市場調査のため、ソラチエースのほか、「フラノマジカル」「フラノブラン」「フラノローザ」という各ホップを使用した商品を限定販売している。

日刊工業新聞2020年1月1日

キーワード
クラフトビール

関連する記事はこちら

特集