【連載・中国依存の功罪】工作機械産業は中国での地産地消が目的?
【コロナで停止】
日本の工作機械メーカーの中国生産が急回復している。DMG森精機、ツガミ、ソディックは通常時の8割程度の操業度に戻った。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、各社とも春節後の稼働停止を余儀なくされた。しかし感染症収束の兆しが指摘されて1カ月ほどが過ぎ、工場の人員もほぼそろった。米中貿易摩擦や人件費の高騰などから、中国の世界の工場としての機能は一時不全に陥ったが、工作機械業界にとっては現地内需に応える重要な供給基地であり続ける。事業縮小、撤退はそぐわない。
「1―3月期決算の中国比率は、世界のどこよりも高いかもしれない」。工作機械大手の首脳は、機械販売が世界的に振るわない中で、中国事業がいち早く回復しつつある現状を指摘する。 ツガミは、春節から新型コロナの影響で休眠状態だった中国顧客が活動を再開したことで、浙江省の自社工場が一転して高水準の操業が続く。新型コロナのピーク時には春節で帰郷した従業員が省内に規制で戻れないこともあったが、現在はフル体制で新規受注分、感染拡大前の受注分の製造をこなす。
DMG森精機はマシニングセンター(MC)を製造する天津工場で人員体制が整い、3月中旬にほぼフル操業に切り替えた。ソディックでも蘇州と廈門の計2工場の稼働が通常時の8割ほどに回復した。
【米中覇権争い】
日系企業による中国製造は、人件費の高騰や米中の覇権争いによる事業継続の難しさを嫌い、縮小、撤退が相次ぐ。安価な労働力を目当てにした「世界の工場」は、いまや東南アジアなどに移りつつある。しかし日本の工作機械産業は、中国生産を主に中国の内需向けと位置付けており、世界の工場とする他産業とは明確に異なる。
その好例がシチズン時計だ。中国の時計部品工場を複数閉鎖したが、山東省の工作機械工場は省内で移転し、生産能力を現在の2倍に拡大する。米中摩擦の最中の2019年末に決めた。
【最重要地域】
中国市場は外需の2―3割を占める。「主要顧客の小型精密金型産業が中国に偏っている」(古川健一ソディック社長)と、日本の工作機械産業にとって中国は現在も最重要地域の一つ。その上、まだ伸びしろがある。
シチズン時計の工場拡張は、将来的に高機能の最終製品に組み込む高精度部品向けの工作機械需要が増加するとの判断からだ。より社会が洗練され、高度な最終製品が求められれば、性能に誇る日本メーカーの高度な工作機械のターゲットゾーンに入ってくる。米中覇権争いの中、米国は製造回帰を掲げるが、「IT産業を制覇した米国に世界最大の加工市場が移るわけがない。油で汚れてしまう仕事を今更するだろうか」(工作機械首脳)と、その実現性は薄いとみる向きが多い。
無論、中国競合メーカーの追い上げへの対抗や、中国故の規制対応の難しさはある。しかし、そのコストに見合った対価はある。
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