東洋紡が提案する「室内でも高い出力が得られる有機薄膜太陽電池用の発電材料」って?
東洋紡は開発を進めている有機薄膜太陽電池(OPV)用の発電材料を電池メーカーなどに向けて提案を始める。2019年6月からフランスの政府系研究機関と共同研究をはじめ、そのノウハウを基に作製した試作品を提案材料にする。温湿度センサーや人感センサーなどのワイヤレス電源用途を想定。22年度中の採用を目指す。
OPV用発電材料は、ノンハロゲンの溶媒にも簡単に溶かすことができ、塗布時にむらができにくい。このため、個体差が少なく安定した発電が可能となる。
同材料を用いて試作したOPV小型セルは、溶媒の種類や塗布の手法を最適化して薄暗い室内でも高い変換効率を実現。ガラスよりも塗布が難しいPETフィルムを基板にしたOPVモジュールの作製にも成功した。
同社は、ファインケミカル事業で培った有機合成技術を応用して低照度の室内用光源でも高い出力が得られるOPV用発電材料の開発を進めており、国内外問わず幅広く訴求していく。
日刊工業新聞2020年3月31日
東洋紡社長・楢原誠慈氏インタビュー
エアバッグ用原糸をタイで生産
―2020年3月期の見通しは。
「米中貿易摩擦など外部環境が悪い中でも踏ん張っている。通期業績も何とか目標を達成できそうだ。ただ足元では、自動車関連の需要が少し落ちている。エアバッグ事業は相当厳しい。エンジニアリングプラスチックはシェアが少ない分影響もそれほどない」
―世界シェアの約4割を持つエアバッグ用原糸から基布まで手がけます。今後の展開は。
「18年にエアバッグ用原糸工場で火災が発生した。その代替として、基布の主力工場があるタイでの工場新設を進めている。今は細部を詰めている段階」
「原糸・基布から、縫製に参入する企業が増えているが、当社に縫製のモジュールを作るノウハウがあるわけではない。協力関係がしっかりしている、グループ会社の独PHP側ですでにモジュールメーカーとのパイプがある。我々がモジュールまで作る必要は今のところない」
―昨年、帝人のフィルム子会社を買収し、フィルム事業のさらなる深化を図ります。
「これから両者の技術を融合した新製品の開発を進める。帝人の強みであるミドルゾーンを低コストで作る技術と、当社のハイエンド品製造技術を融合させ、特徴ある面白い高機能フィルムができると期待している。両者の技術系社員がわくわくしていて、いい刺激になっている」
―環境にやさしい製品作りが世界的にも注目を集めています。
「マイクロプラスチックの問題などから、環境配慮商品の開発にも取り組んでいる。ペットボトルなどに使われるシュリンクフィルムは、重さベースでは2割の国内シェアだが、面積では約4割に増える。同じ性能でできるだけ薄くする研究開発の成果だ。さらにリサイクル原料をできるだけ使い、二酸化炭素(CO2)排出量削減などでも貢献したい」
【記者の目/土台整い成長果たす好機】 楢原誠慈社長は「整える1年だった」と昨年を振り返った。18年の工場火災を踏まえ、企業の土台となる安全や品質に対し外部の目も入れながら原点に返って立て直してきた。その結果、長期的な視点で会社の成長を考える社員が増えてきたという。土台を整え、意識も変わってきた今こそ、さらなる成長を果たす好機だ。(大阪・新庄悠)