NTTが構想する光技術による情報通信基盤「IOWN」は、どんな未来を実現するのか

<情報工場 「読学」のススメ#77>『IOWN構想』(澤田 純 監修、井伊 基之/川添 雄彦 著)

IOWN構想を説明する澤田社長

■画期的な情報通信インフラ「IOWN」がパラダイムシフトを引き起こす

毎朝、目覚めるとまず、スマートフォンでメールやチャットをチェックする。買い物の支払いはスマホの電子決済。客先に向かうタクシーは配車アプリでつかまえる。そんな日常を送るのは、私だけではないはずだ。約30年前に登場したインターネットは、金融、モビリティ、エネルギーなど、社会インフラ全体を一変させた。

じつは今、さらなるパラダイムシフトが起きつつあるという。従来とは発想の異なる情報通信インフラの構想がスタートしているのだ。「IOWN(アイオン=Innovative Optical & Wireless Network)構想」が、それだ。NTTが描く新たな情報通信基盤の構想で、2030年の実現を目指して検討が進められている。

NTTは、2020年春にも米インテル、ソニーと「IOWNグローバルフォーラム」を設立予定で、オープンイノベーションを想定する。米マイクロソフトやベライゾン、台湾の中華電信など約120社が参加検討中と報じられている。

『IOWN構想』(NTT出版)は、監修をNTT社長の澤田純氏、執筆を同副社長の井伊基之氏と同研究企画部門長の川添雄彦氏が手がける。つまり、当事者たちによるIOWN構想の解説書だ。

IOWNは技術的に、次の三つの要素で構成される。(1)AFN(オールフォトニクス・ネットワーク)、(2)DTC(デジタルツインコンピューティング)、(3)CF(コグニティブ・ファウンデーション)。

AFNは、発信元から受信先まですべての通信を「光」でつなぐネットワーク技術。従来は、伝送の途中、ルータなどによって、複数回にわたって光信号と電気信号の変換を行う必要があった。AFNにより、現状よりもはるかに高品質・大容量・低遅延、かつ低消費電力の通信が可能になる。

DTCは、現実世界を構成するモノや人などをサイバー空間に再現し、それらを組み合わせて高度なシミュレーションを行う技術。CFは、クラウドやネットワークサービス、ユーザーのICTリソースなどの管理・運用を一元的に、迅速かつ柔軟に行う仕組みだ。

■「IOWN」が多様な価値観を認め合う社会を実現する

IOWN構想の出発点は意外にも、世界が直面する「分断」への問題意識だ。

現代の世界では、国家間から個人間まで、あらゆるレベルで分断が進んでいる。ネット上では、情報フィルタリングによって自分の好む情報しか得ないために、エビデンスのない感情的な対立がはびこる。

分断を解消するには、まず、多様な深い情報を得ることで、個人の考え方や価値観を変える必要がある。IOWNは、そのための「情報環境=場」を実現する手段の一つ。つまり、多様な価値観を認め合うためのインフラという位置づけだ。

多様な価値観を認め合うためのポイントは、「共感力」にあるだろう。IOWNの技術が、共感力を高めるのは間違いないと思われる。

なぜか。まず、伝送できる情報の量や質が圧倒的に向上する。人の体験や感動は、光や音だけでなく、気温や湿度、気圧、UV強度、風、音圧、さらには内面的な事象など、多岐にわたる情報から構成される。IOWNは、これらをできる限りありのままに伝送し、遠隔地で誰かが感じるアナログの空気感を、伝送先の体験者が、全身でそのまま感じることができるようにするという。

バーで聴くジャズの生演奏なら、従来の技術では拾い切れなかった音域の音、奏者の息遣い、振動する空気や手元のウイスキーの香りまで丸ごと伝送することで、会場全体を包み込むグルーヴの心地よさを、圧倒的な臨場感をもって“体験”できるようになるかもしれない。VR(仮想現実)の進化版をイメージするとわかりやすいかもしれない。

VRが共感力を高めることについては、すでに多くの指摘がある。たとえばジェレミー・ベイレンソン著『VRは脳をどう変えるか?』(文藝春秋)によると、VRの没入感は、他者の経験を共有し、理解するのに役立つ。この本では、ヨルダンの難民キャンプを描いたVRドキュメンタリーを体験した人は、そうでない人の2倍の率で寄付をするという研究結果が紹介されている。

IOWNによって戦場の様子を伝送したらどうなるだろうか。映像や音に加え、その場の空気感が、ナチュラルに、あたかも現実のように伝われば、そこに暮らす人々の苦しみや悲しみは、より共感されることだろう。

■情報通信技術はコミュニケーションから「未来予測」へ

従来、情報通信技術の本質は、コミュニケーションにあった。しかし、IOWNは、従来の技術を基盤として「未来予測」という価値を創出するという。

DTCを活用し、さまざまな要素を組み合わせて演算処理することで、サイバー空間上で未来予測が可能になる。都市計画であれば、立地条件や気候をサイバー空間上に構築し、既存の都市やインフラを再現したモデルを融合して、その都市に最適なサイズや構造をシミュレーションできる。

さらに、その仮想空間に、思考や行動様式などの“個人性”を備えたヒトのモデルを加えることで、未来を予測できる。条件を変更して複数の未来を予測し、その中から、人間がよりよい未来を選びとれるようにもなるという。

IOWN構想の描く未来は、もはや想像がつかない部分もある。だが、とてつもないビッグコンセプトであることは間違いない。これを掲げ、挑戦できるのは、日本の情報通信インフラを長年にわたって支え、リードし続けてきたNTTだからこそだろう。今後、同社がIOWNグローバルフォーラムに集う企業をいかにまとめ、連携を進めていくかに注目したい。(文=情報工場「SERENDIP」編集部)

『IOWN構想』
-インターネットの先へ
澤田 純 監修
井伊 基之/川添 雄彦 著
NTT出版
244p 2,200円(税別)

<情報工場 「読学」のススメ#77>

COMMENT

冨岡 桂子
情報工場

もちろん、IOWN構想では、バラ色の未来だけでなく、リスクも見据える必要があるだろう。VRでもしばしば指摘されるが、リアルでナチュラルな情報の伝送は、共感力を高める反面、偽の情報を送ることによる「洗脳」の危険性もはらむ。デジタルツインに“個人性”を備えたヒトのモデルを加えるならば、当然プライバシーの問題は浮上する。サイバー攻撃に対しては、IOWNの三つ目の機能であるCF(コグニティブ・ファウンデーション)で対応するそうだが、上記のようなリスクに対してもしっかりと対策されることを期待したい。

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