スタンフォード大卒のお気楽な高給取りより、シリコンバレーで仕事ができる人の見つけ方

フラクタ・加藤崇CEO

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シリコンバレーは現在、バブルの様相だ。シリコンバレーに本社を置く、タクシー配車アプリケーション(応用ソフト)のUberやLyft、またオンライン共同作業アプリのSlackなどが次々と時価総額1兆円以上の大型上場を果たし、巨額の資金を盾に成長を希求したことで、人材争奪合戦に拍車がかかった。各社がシリコンバレーという狭いエリアで人材を奪い合った結果、近隣の住宅価格はこの10年間で2倍に跳ね上がり、周辺のスタンフォード大学卒業生などに熱い視線が注がれる結果として、初任給で年俸1千万円程度の仕事が珍しくなくなった。

つられて30代、40代のソフトウエアエンジニアの年俸相場も上がりに上がったが、若者にとってこれが本当に良いことなのだろうかと思うことが増えた。僕の会社はシリコンバレーに本社を置いているが、従業員も30人を超えてくると、この1、2年で雇った若い従業員の中には朝9時に出社して、仕事が終わっていなくても夕方5時になるとサッと帰宅してしまう人がチラホラと出てきた。僕は自らの経験から、35歳くらいまでは膨大な仕事の「量」をこなしながら「質」を担保しつつ、仕事の要領を覚えるのが良いと信じている。

しかし、バブル経済はこれに水を差す。若い人にとって「失われた時」を作ってしまう可能性がある。ハードワークをしなくても誰かが今の会社よりも少し高い給料をいつも用意してくれる。隣の芝生が青く見え、誘惑に勝てずに隣の会社にパッと移ってしまう。結果として、じっくりと仕事に取り組む機会を失い、気づけば歳を取っている。iPhoneを生み出したトニー・ファデルの名前を持ち出すまでもなく、シリコンバレーの伝説になった人たちは、若いころ週に80―120時間働いてきたことを忘れてはならない。

メンローパークのレストランで、そんなことをボンヤリと考えていたある日、そこで以前から働く顔見知りのウエーターと話をする機会があった。見た目は地味だが、勘がよく、昔から他のスタッフと違い、本当によく働いていることが印象的だった。聞けば彼は日中、個人で株式のトレーディングをやっているとのこと。僕がファイナンスに詳しいこともあって、話が盛り上がった。

彼は大学の電気工学科を出て、シリコンバレーでソフトウエアエンジニアとして働いていたそうだ。だが、ここ数年は趣味の株式トレーディングで生計を立てている。夜の間だけレストランで働いているのは、生計を助け、また顧客とコミュニケーションを取ることで株式トレーディングという殺伐とした世界から一時離れるためとのことだった。

自宅に戻り、「こういう人が必要だ」と思い立った僕は、すぐさま彼を会員制交流サイト(SNS)で探し出し、「うちの会社で働かないか?」とメッセージを送った。そんな彼が、今わが社の製品開発部門で働いているのは、お察しの通りだ。スタンフォード大卒のお気楽な高給取りよりも、はるかに仕事が早い。彼のようにハングリーな人間が、会社で早々に出世の階段を駆け上がることは間違いないだろう。

映画『ファウンダー』に、マクドナルドの創業者であるレイ・クロックが、ハンバーガーショップをフランチャイズ化しようと奮闘するシーンが出てくる。創業初期、地元の裕福なビジネスマンたちにフランチャイズ権を与えたら、店は掃除されず、ハンバーガーは失敗作ばかりで、経営が立ち行かなくなった。この苦い経験から、今度はハングリーな労働者階級出身の夫婦にマクドナルドのフランチャイズ権を与えたところ、彼らは自分たちの未来をこのフランチャイズビジネスの未来と重ね合わせ、瞬く間に会社が大きくなったという話が出てくる。

もちろん、この夫婦は大成功し大金持ちになった。いつの時代もビジネスの本質は変わらない。

【略歴】かとう・たかし 早大理工卒業。米スタンフォード大元客員研究員。ヒト型ロボットベンチャーのシャフトを共同創業し、米グーグルに売却。インフラ劣化予測の人工知能(AI)ベンチャー、フラクタを米で創業。米シリコンバレー在住。

日刊工業新聞2020年2月24日

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