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フラクタの加藤さんが伝授 シリコンバレー流「成功術」とは?

「楽観性」をテーマにしたカフェを渋谷にオープン
フラクタの加藤さんが伝授 シリコンバレー流「成功術」とは?

フラクタCEO・加藤崇氏

 米カリフォルニア州のパロアルト市やメンローパーク市を中心とするエリアは、この地で半導体産業が勃興したことから(半導体はシリコン素材でできていて、またこのエリアがサンフランシスコ湾を谷で囲むようにできているので)「シリコンバレー」と呼ばれる。やがてこの小さな地域から、パーソナルコンピューター(アップル)や、遺伝子工学(ジェネンテック)、インターネット(ヤフー、グーグル)といった産業を創造し、またリードする企業群が次々と生み出されていったことは有名だ。

 熱狂や挑戦、また経済的な成功を求めて、世界中の天才、異才たちが、この地に集まってくる。シリコンバレーは、まさに才能を引き寄せるマグネットとしての役割を果たしているのだ。僕は4年前にシリコンバレーに移住し、現地の起業家たちと交流するようになって間もなく、あることに気がついた。ここで活躍する起業家たちは、ある角度でものを見ている。それは「最後には、きっとうまくいく」という角度であり、言葉を変えれば、彼ら彼女らは極めて「楽観的」であるということだ。

 何度も失敗しなければ、そもそも成功などできない。だから、早く失敗するために、早くトライする。失敗に対して寛容なのだ。こうした思考法は、僕にとって極めて「楽観的」に映る。マウンテンビューにあるグーグルの本社に遊びに行ったときも、オフィス全体が「楽観性」を後押しするように設計されているという確かな実感を持った。建物と建物の間にある植樹の配置、枝や葉の動きすら計算されている気がしたのだ。これがシリコンバレー成功の秘訣(ひけつ)かもしれない。

 そんなことに気づいた僕は、あることを思い立った。僕は、日に3杯も4杯もコーヒーを飲む大のコーヒー好きだ。仕事も商談も、カフェで行う。ならば日本に「シリコンバレー」をテーマに、何よりその「楽観性」をテーマにしたカフェを作ってみようと思った。僕にとっては、何でもエンジニアリングの対象なのだ。

 東京都の渋谷2丁目にある映画館の隣に小さな不動産を借り「シリコンバレー」とはそもそも何なのか、人間はどのようにしたら「楽観的」になれるのか、それをカフェという空間でどのように表現すれば良いか、仲間と一緒に考え抜いた。つまり、シリコンバレー成功の秘訣である「楽観性」を各要素に分解し、「カフェ」という軸で再構成したのだ。

 人間を楽観的にするためには、店内はどのような壁の色にして、どのような展示物があれば良いのだろうか。テーブルの色や肌触り、またいすの座り心地は人間の感覚にどんな影響を与えるのか。音楽はどのようなものが心地よいか。スタッフの応対はどのようなもので、ユニホームはどんなデザインが最適か。コーヒーはどのような味にすべきか。

 こうしたもろもろの項目を「楽観性を後押しする」という軸で再整理して、首尾一貫した形に整えていく。名前を「メンローパーク・コーヒー」として1月にオープンするや、少しずつ常連さんも増えてきて、有名な経営者の人たちが立ち寄ってくれるようになった。

 お客さんからのコメントが面白い。彼女たちは「楽観的になれました」などとは言わない。そうではなくて「雰囲気が良かった」「商談の前に寄ったら、商談がうまくいった」と言う。「楽観性」を価値として押し出すカフェがこれまでにないから、言語化できないのだろう。目に見えないものを形にできた瞬間だ。

 これが重なると、シリコンバレーのように「縁起の良い場所」という認知が形成されていく。ベンチャー企業や、新規事業などに取り組むときのポイントが「楽観性」にあるならば、日本企業はこうした「暗黙知」に対して、もっと体系的かつ真剣に取り組むべきだ。読者の方もこういうことに気づくと、思いがけない果実が得られるかもしれない。(加藤さんの寄稿は毎月1回程度掲載する予定です)

【略歴】加藤崇(かとう・たかし)早大理工卒業。米スタンフォード大元客員研究員。ヒト型ロボットベンチャーのシャフトを共同創業し、米グーグルに売却。インフラ劣化予測の人工知能(AI)ベンチャー、フラクタを米で創業。米シリコンバレー在住。
日刊工業新聞2019年10月7日(卓見異見)

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