ニュースイッチ

アミューズメントVRの集客力にかげり…淘汰どう生き抜くか

アミューズメントVRの集客力にかげり…淘汰どう生き抜くか

MAZARIAのマリオカートVR

アミューズメント施設などで遊ぶロケーション仮想現実(VR)が試練の時を迎えている。テクノロジーブームが一段落し、VRの“物珍しさ”だけでは集客が難しくなり始めている。既存技術と費用対効果を比べられ、改めてVRコンテンツの価値が問われている。大手はアニメやスポーツなどの強いコンテンツを導入し、ベンチャーは技術とコンテンツを並行して開発する。過剰な期待が落ち着き、この淘汰(とうた)期を生き残った者が市場を勝ち取れる。(取材=小寺貴之)

■バンダイナムコアミューズメント 「アニメ」「ゲーム」世界に没入

「VRというキーワードだけで人を集めるのは難しい。(アニメの)ガンダムなどの強い知的財産(IP)と組み合わせて価値を最大限引き出す。我々はアニメやゲームの世界に入り込む体験を提供していく」と、バンダイナムコアミューズメント(東京都港区)の萩原仁社長は力を込める。同社は「パックマン」「太鼓の達人」などのゲームをVRにした旗艦店「MAZARIA(マザリア)」を2019年7月にオープン。アニメやゲームなどのIPを使ったコンテンツシフトを鮮明にした。

バンダイナムコホールディングス(HD)グループのサンライズ(同杉並区)の浅沼誠社長は「『マリオカートVR』は今でも世界最高のVR。やると感動するけど、やらないと面白さが伝わらない」と語る。ヘッドマウントディスプレー(HMD)は装着者にしかVR体験の臨場感や面白さが伝わらない課題があった。端から見ていた人がつられて遊ぶ割合が低い。またVRに惹きつけられた人は“テクノロジー好き”が多く、必ずしもゲーム好きではなかった。

MAZARIAの太鼓の達人VR

そして、ゲームセンターなどの施設にとっては坪当たりの利益率が下がってしまう。HMDなどの装着要員や見守り要員が必要になるため人件費はかさむ。回転率も悪く、対策として入場料モデルが採用された。結果、施設集客力が問われ、売りがVRからコンテンツに移行している。

■ハシラス 「高臨場感の移動」磨く

こうした課題は「カイゼンの積み重ねで解決していく」とハシラス(同北区)の安藤晃弘社長(ロケーションベースVR協会代表理事)は説明する。メーカーによるHMDの開発投資は継続されており、機器のコストや動作安定性は改善されていく見込みだ。装着はユーザーが慣れていくのに伴い介助が要らなくなる。

コンテンツ開発もVRならではの魅力が生かせるものへと選別が進む。ハシラスは5年間で45種131体のVRアトラクションを作製した。その結果、安藤社長は「最も価値を引き出せるのは高臨場感の移動体験」と断言する。ロケーションVRの強みは、運転席や乗馬具などのモーションベース(移動感提示装置)だ。走り抜ける加速度や振動、浮遊感を演出できる。

そこで同社は立ち乗りのパーソナルモビリティーを再現する「キックウェイ」を開発した。搭乗部分は前後5センチメートル、旋回5度の小さな動きでジェットコースターの急降下や空中に放り投げられる感覚を再現する。設置面積は90センチ×75センチメートルとスペースの利用効率が高い。博物館や水族館などの動的展示向けに提案していく。

ソリッドレイ研究所(横浜市神奈川区)の今村伊知郎専門部長(日本バーチャルリアリティ学会理事)は「ショッピングモールの家族連れの開拓が急務だ」と強調する。ショッピングモールは施設自体の集客力が高いため、来場客がその場でふらっと入ってお金を落としていくアトラクションが求められる。

そこでプロジェクター型のスポーツコンテンツを提案する。サッカーのペナルティーキックや野球のバッティングなどは縮尺を変えて再現できる。反復幅跳びをエアホッケーのような対戦ゲームにしたり、リズムゲームのようにタップを踏ませるなどのスポーツコンテンツが制作されてきた。今村理事は「スポーツは端から見て分かりやすく、年齢を問わず楽しまれる」と指摘する。地域のスポーツチームと組めば相乗効果も見込める。

■メリープ 「HADO」200万人プレー

新技術で新しいスポーツを作るベンチャーもある。自社でコンテンツと技術を開発しつつ、競技者も増やしていく必要がある。meleap(メリープ、東京都千代田区)の福田浩士最高経営責任者(CEO)は「プロリーグの立ち上げに向けてプレーヤーや監督、スポンサーなど、あらゆる人材を集めている。目が回るほど忙しい」と苦笑いする。

同社はテクノスポーツ「HADO」を開発してきた。HADOは参加者が3対3で対戦し、拡張現実(AR)のエネルギー弾をぶつけあう。競技や技術を開発する段階から普及の段階に進んでいる。累計プレーヤーは200万人以上。フィリピンの最大手メディア「ABS―CBN」と独占契約し、同国では全国放送もされる。

メリープのHADO Xball(同社提供)

コンピューターゲームをプロ競技化した「eスポーツ」は遊び手が1億人いると、その1割が大会を見るだけで1000万人の視聴者を確保できる。だが新しいテクノスポーツはすべてゼロから作る必要があった。福田CEOは「HADOの競技者が競技自体を盛り上げようとしてくれている。お客であり、ビジネスを作る仲間でもある」と説明する。競技コミュニティーを支えるコア層ができ、裾野を広げる環境が整った。新たな競技「HADO Xball」は21年に世界5カ国でプロリーグを立ち上げる計画だ。

■グラフィティ “激闘”シューティング

Graffity(グラフィティ、同渋谷区)はARシューティング対戦ゲーム「HoloBreak」を今秋リリースする。対戦相手を撃ち、拠点を破壊して制圧する。プレーヤー同士で背後を取り合うため、激しい運動になる。人数分のスマートフォンがあれば、位置マーカーを1枚印刷するだけで始められる。

森本俊亨社長は「体験者の満足度アンケートは10点満点中9・1点。ARが映えるため会員制交流サイト(SNS)で拡散されやすい」と手応えを語る。バンダイナムコグループのアクセラレーションプログラムに採択され、スマホ対戦アプリケーション(応用ソフト)とアミューズメント施設向けなどのコンテンツ開発を進めている。

グラフィティのHoloBreak(同社提供)

ARシューティングは、いわゆる戦隊モノのオモチャと相性が良い。特撮テレビドラマに登場する武器のオモチャにスマホを載せると必殺技を出せ、ARで相手を悪役やヒーローに変身させられる。森本社長は「ヒーローショーで子どもが悪役を撃って倒せる。物販につながればデパートの屋上などが競技スペースになり得る」と期待する。遊ぶ場所や仲間を広げられるか注目される。

【追記】

世の中のコンテンツの主流は、シェア・ながら・インスタントだそうです。ゲームであれば攻略サイトを見ながらゲームをし、ゲームをしながら動画をみたり、プレーを配信したり、チャットやSNSで情報交換したり、成績を競ったりと体験をシェアします。これがさまざまな場面に浸透していて、通勤の電車の中でも、トイレやたばこを吸う5分間でもコンテンツとして成立するように短くインスタント化されています。隙間時間をとれると、その後の落ち着いた時間にもリーチできるので、ユーザーの接点の取り合いでは強いです。安藤理事はロケーションVRはこの3要素の対極にあると苦笑いします。空白時間の奪い合いや日常への浸透はいまのHMDでは難しいかもしれません。それを超える高臨場感の特別な体験がVRの中にあったわけで、広く定着していないのは歯がゆいものあります。

メディアはブームに乗ってVRクリエーターが必要な時代と喧伝しました。ですがクリエーターを支える環境・エコシステムはまだまだ未熟なものがあります。VRクリエーターは既存のクリエーターに比べるとクリエーターでいるためのランニングコストが高いです。HMDはどんどん変わるし、CGやコンテンツを作るツール、配信インフラも日々進歩と陳腐化が進んでいます。エンジニアでなくともクリエーターが技術やインフラ、創作のトレンドも追いかけないといけません。全部できるのは一部の大手とベンチャーに限られ、まだ産業として成功しているようにはみえません。こういうことをいうと、VRが目的化していて、クリエーターがツールに縛られては本末転倒と怒られるのですが、業界としてはゲームやアミューズメント以外にも太客をつかまえる必要があると思います。観光・教育・スポーツが候補に挙げられてきました。公的なお財布は大きくありませんが、淘汰期に堅実に力を蓄える場になると思います。ブームとともに去っていった投資家やメディアをぎゃふんといわせなければなりません。

日刊工業新聞2020年2月4日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
コンシューマー向けのVRがあまり伸びなかったため、ロケーションVRの比重は依然として大きいものがあります。テックブームが落ち着き、いくども繰り返されてきたキラーコンテンツ論に再度はまるかもしれません。米国西海岸には「VRはいまやけどしているからVRというだけで投資しない」というVCもいるそうです。淘汰期は作品や開発品を淘汰するというよりも、堅実に投資を続けられる事業者を淘汰しています。この期間にブームに翻弄されないコスパで勝てる製品が出てくるのだと思います。

編集部のおすすめ