丸投げする企業も…「ソリューション」を追うロボットシステムインテグレータ、“情報戦”へ
ロボットシステムを構築するシステムインテグレーター(SI)の仕事にITや管理制御システムの重みが増している。加工品の画像検査や装置の異常検知など、ロボットやFA機器が大量のデータを吐き出すようになった。異常や正常など、データに意味を付けるのはロボットユーザーの仕事だ。SIは判定結果に応じて機器を制御する。ただ、すべてを丸投げする企業は少なくない。SIが情報戦に移行しつつある。(取材・小寺貴之)
【情報量が急増】
「人工知能(AI)技術などで画像識別するシステムがとても増えた。データをさばき、現場に落とし込む技術が課題だ」とFA・ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会、東京都港区)の久保田和雄会長(三明機工社長)は指摘する。第5世代通信(5G)で送れるデータの量が増え、演算素子の進化で処理速度が向上すると見込まれる。するとAI識別などの結果をリアルタイムに生産ラインに戻して機器を制御できるようになる。久保田会長は「コネクトする情報の量が急増する。ロボットのコントローラーも変わる」と予想する。
自動車や電機などの大手製造業はロボットやIT、データ分析などの仕事を切り分けて、それぞれを得意な企業に発注する力があった。全体設計や運用面などの現場とのすり合わせをユーザー主導で進められる。問題は人手不足を受けて急速にロボット化を進めている中小企業や非製造業だ。人材や資金に限界のある企業ほど丸投げできるソリューションを求めている。
カンタム・ウシカタ(横浜市都筑区)の松井重憲ロボティクス事業部統括部長は「顧客が求めるのはロボットでも技術力でもなくソリューション。目の前の課題を解決することを求められている」と説明する。
情報システムとロボットや生産設備をつなぐ必要があるものの、「統合業務パッケージ(ERP)や製造実行システム(MES)を扱うIT屋と、ロボット屋で見積もりの金額が合わない」(プログラマブル・ロジック・コントローラーメーカー)とされる。IT屋とロボット屋が分業するほどの予算はなく、どちらかが仕事を受けてもう片方を飲み込んでいる。
【手軽なシステム】
これは商機でもある。日立ソリューションズ・テクノロジー(東京都立川市)は協働ロボットの稼働監視ソフト「ろぼ丸」を提案する。ロボットが異常停止したらエラーコードに応じて復旧法などを提示する。協働ロボは生産ライン自動化の設計検証の段階で、数台規模で採用されることが多い。稼働監視と異常対応の入門システムとして売り込む。
同社の小林正和シニアアドバイザは「協働ロボは1台から導入される。手軽に始められる管理ソフトが必要だった」と説明する。ろぼ丸をきっかけにMESなどの情報システムの仕事をとりに行く。
リンクウィズ(浜松市東区)は生産工程の計測データを全数検査に用いる「Lクオリファイ」を提案する。
溶接時にレーザースキャナーで加工対象物(ワーク)を測り、溶接ビードや外観形状などのデータを品質管理に使う。ワーク1個1個のデータがリアルタイムに集計される。1カ月当たりの不良発生推移や発生箇所などを分析できる。吹野豪社長は「顧客にとって重要なのは品質のソリューション。情報戦の重みが増している」と話す。
【勤勉さが支える】
MUJIN(東京都江東区)の滝野一征最高経営責任者(CEO)は「プログラマブル・ロジック・コントローラー(PLC)より上位のソフトウエアができるSIは仕事がいくらでもある」と説明する。国内SIは仕事が多く、SI自身も人手不足に悩むほどだ。それでも滝野CEOは、「現在の好況も最終盤。目の前の忙しさに追われてソフトを勉強しておかないと早晩行き詰まる」と指摘する。
顧客からの丸投げや予算の問題には本質的なソリューションがない。技術が進歩しシステムが成熟すると、丸投げされても受けられる領域が広がる。
SIの勤勉さは競争領域の拡大を支えている。生産ノウハウや品質管理との統合も進む。情報戦の行く末が注目される。
出典:日刊工業新聞2020年1月22日
提案力でこじ開けろ ロボSI、多彩な用途開拓
出典:日刊工業新聞2019年12月20日
「2019国際ロボット展」ではシステムインテグレーター(SI)が多彩な用途を提案している。SIは用途開拓の先陣を切ってきた。近年は製造業の次の市場として食品などの「三品産業」の開拓を進めてきた。この次の市場はどこか。SIの提案力にはロボットの未来がかかっている。(取材・小寺貴之)
【石材運搬向け】
「アイデア勝負しかない。どのブースも素晴らしい。ロボを扱えるだけでは差別化にならない」と、カンタム・ウシカタ(横浜市都筑区)の松井重憲ロボティクス事業部統括部長はSIの競争の激しさに苦笑いする。システムを組めるだけでは差別化できず、各社は独自色をいかに出すか知恵を絞る。
同社は新しい用途開拓を進める。建設資材メーカー向けに7・5キログラム石材搬送のデモを用意した。切り出した石材は重く、粉まみれだ。普通の吸盤では扱いが難しい。そこで協働ロボにデンマークのOnRobot(オンロボット)の二分岐ハンドを採用した。片方にハケ、もう片方に真空グリッパーを搭載。ハケで粉を拭いて吸い上げる。松井部長は「石材の研磨工程などに提案していく」と力を込める。
【飲料おしゃれに】
ブライトコア(東京都港区)はコーヒーやコーラなどの飲料を注ぐシステム「yaam」を提案する。協働ロボがプラスチックカップをセットすると、カップの底の穴から炭酸や飲料を流し込む。液体を発光ダイオード(LED)で光らせておしゃれに演出する。
イゴール・ポポヴィッチ社長は「接客サービスにロボットを導入したい。飲み物はちょうどいいテーマ。みな面白がってくれる」と引き合いは多いようだ。
カップ供給に加え、コーヒーのハンドドリップもロボット化していく。21日には会場でビールを注ぐ予定だ。
【AIで介護予防】
人工知能(AI)ベンチャーのエクサウィザーズ(東京都港区)は、女優のいとうまい子さんと介護予防ロボを開発。シャープのロボホンの指示に従ってスクワットをすると、AIで姿勢の良否を判定する。いとうまい子さんは「運動が大切と、わかっていても続かない。AIの指導で朝昼晩、運動を強制して人生100年時代を生き抜く」と力を込める。
【既存業界にも】
既存の製造業や物流業への提案も盛んだ。旭興産(山口県岩国市)はコンパクトな高速ピッキングシステムを提案。ベルトコンベヤーに流れるピースを画像認識して水平多関節(スカラ)ロボで仕分ける。ホテル用歯磨き粉チューブの包装ラインに採用された。上尾直己課長は「高速モードは1ピッキングが0・66秒」と処理能力の速さに胸を張る。
豊電子工業(愛知県刈谷市)はぶつからない産ロボを披露する。来場者は、2台の産ロボの軌道を変えてぶつからないか試すことができる。ロボの軌道が交差すると、軌道を再計算して衝突を回避する。再計算時間は約5ミリ秒。成瀬雅輝常務執行役員は「人と協働ロボの衝突回避に応用していく」と説明する。
SIの知恵比べには終わりがない。この競争に鍛えられてきた提案力で、新しい市場をこじ開けようとしている。
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