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折込チラシのクーポンを切り取って販売。“節約心”をくすぐるECサイト

文=尼口友厚(ネットコンシェルジェ CEO) 食料費の節約を約束する「TheCouponClippers」
折込チラシのクーポンを切り取って販売。“節約心”をくすぐるECサイト

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「自宅でできる仕事」を探して、たどり着いたクーポンビジネス


 TheCouponClippersを創設したのは、Rachael Woodard(画像3中央の女性、以下ウッダード)氏。1984年に結婚した彼女の夫、ケン氏はフロリダ州デイトシティにある小さなパプティスト教会に牧師として務めており、夫婦で教会の活動に励んできた。

 牧師の仕事はケン氏の天職だが、給料は決して高いとは言えない。4人の子を持つウッダード氏は子育ての費用を捻出するためにも、自分がお金を稼ぐ必要があると感じた。大学に進学させるまで子供たちは自宅で教育(ホームスクーリング)していたこともあり、なるべく外出せずに続けられる仕事が理想だった。

 常に節約に励んでいた彼女はクーポンの積極的な利用者でもあった。クーポンは普通に使うだけでも節約になるが、使うタイミングや使う店を選ぶことでさらにその節約効果は増大するということも経験で学んだ。

 例えば、定価4ドルの商品の額面1ドルのクーポンを持っていても、その商品が利用する店で定価で販売されているときならば、3ドルを支払わなければならない。しかしその商品がバーゲンで半額の2ドルになっているときにクーポンを使えば、出費は1ドルで済む。

 こうした知識を蓄えていくうちに、欲しいクーポンが欲しいときに欲しい枚数だけ入手できれば効率的だと気づく。これが「クーポン切り抜きサービス」というアイデアに繋がり、1996年6月にTheCouponClippersを創設する。

 当初、クーポンを集めて、切り抜き、発送する仕事はウッダード氏の自宅で、家族や親戚の協力を得て行っていた。4人の子供たちも積極的に手伝ってくれた。ウッダード氏はこのサイトを運営したことが、子供の教育にも良い影響を与えたと語っている。現在では、家族以外のスタッフを雇っているが、作業場には相変わらずウッダード氏の自宅が使われている。同サイトのfacebookでは、クーポンの仕分けの様子などスタッフの仕事ぶりも画像や動画で紹介している。

 競合と差をつけるカスタマーサービス

 2010年12月24日に掲載されたThe Economistの「Return of the coupon-clippers」という記事では、一時期、減少していたクーポンの利用者が米国で再び増加傾向に転じ、「クーポンルネッサンス」が起きていると報じている。この記事によれば、近年の不況は米国に「質素」を尊ぶ新しい文化を産んでおり、その影響は一時的ではなく、永続する可能性が高いという。

 この新しい文化の誕生を素早く察知したテレビ局TLCは『Extreme Couponing』というリアリティ番組を制作し、クーポンを徹底的に使いこなすことで、尋常でない節約を果たしている人たちをシリーズで紹介し始めた。これもTheCouponClippersのビジネスにとって追い風になっている。

 クーポンの人気復活とともに、TheCouponClippersと同様のサービスを提供するサイトも増加してきた。また、eBayなどのオークションサイトでもクーポンが出品されるようになった。しかしクーポン使いの達人たちの間では、お勧めのサイトとして必ずTheCouponClippersの名前が挙がる。

 業界の老舗であり、扱っているクーポンの種類が多いこともあるが、ライブヘルプやメールを通じて顧客の疑問に答えるなど、カスタマーサービスに力を入れていることも同サイトが信頼を得ている大きな要因だ。また、顧客同士でクーポンを使いこなす工夫を伝授し合えるようにサイト内に掲示板も設けており、コミュニティの育成に繋がっている。

 「節約のために敢えて出費をしよう」という消費者は買物に対して超シビアであり、少しでも疑問や不信があったら買物するのを躊躇する。その心理を理解して、きちんと対応していることが競合との差を産んでいるようだ。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
節約心をくすぐるには、そのサービス業者の儲け主義やいやらしさが見えてはいけない。その点はとても難しいことだろうが、この「TheCouponClippers」はうまくコントロールできているのだろう。個人的には紙の媒体というか印刷物の可能性をちょうど考えていたところだったので、とても興味深い事例だった。

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