【2020】経営者たちが新成人に薦めるこの一冊

  • 0
  • 2

●岸見一郎、古賀史健著『嫌われる勇気』
経済同友会代表幹事・桜田謙悟(さくらだ・けんご)氏「勇気持って一歩踏み出せ」

心理学者アルフレッド・アドラーの思想をわかりやすく紹介した一冊。今の日本は不都合な真実がそこら中に転がっているが、国民は見ようとしないし声を上げない。政治家は嫌われたくないから耳障りのいいことを言う。
日本でイノベーションの創出や多様性の受容と活用が起きないのも根っこにあるのは過度な同調性。嫌われたくないから皆と同じことをやる。それが停滞した平成の30年を招き、日本の「宿題」を山積みにした。
逃げ切れる世代もいるが、若者は前の世代が残した「宿題」を抱えて生きていかなければならない。今こそ「勇気」を持って一歩踏み出してほしい。

●ジェフ・トンプソン著『小枝にしばられたゾウ』
川崎重工業社長・金花芳則(かねはな・よしのり)氏「失敗恐れず率先して行動」

「若い人たちよ、固定観念の中に閉じこもっていないか?」。入社式のときに、私はこの本のことを話すようにしている。インドでは子象が逃げ出さないように、小さいころから頑丈な大木などにつないでおく習慣がある。逃げようとしても大木はびくともせず、いつしか子象は逃げようとしてもムダなのだ、何をやっても環境は変えられないと思い込むようになる。つなぐ木が大木でなく小枝に変わっても、象は逃げようとしない。
若いころは失敗を恐れず、どんどんチャレンジしてほしい。挑戦せずに最初から「何をやってもダメだろう」と諦めたりせず、率先行動する心が大切だ。

●宮城谷昌光著『孟嘗君』
三井住友フィナンシャルグループ社長・太田純(おおた・じゅん)氏「自分を失わずチャレンジ」

中国の春秋戦国時代を生きた主人公の田文(でん・ぶん)、後の孟嘗君の一生を描いた小説。生まれた日が不吉だと父親に言われ殺すことを命じられる。難を逃れた主人公はさまざまな経験を積み運命に操られながらも宰相に就く。国の運営は企業経営にも似ており、参考になる。
変化する世の中で、主人公がどう生きたか。それは信念を貫いて生きたのか、自分の生き方にも参考になる。若くて活力もあり時間もあるので、多くのことを経験してもらいたい。
社会人になると自由な時間も行動範囲も狭くなる。主人公のように自分を失わずチャレンジしてほしい。

●岩倉信弥著『1分間本田宗一郎 常識を打ち破る人生哲学77』
八千代工業社長・山口次郎(やまぐち・じろう)氏「知識ではなく知恵を出せ」

若い世代は参加交流型サイト(SNS)で、やりとりは一言で終わり、長文を読むのは苦手かもしれない。この本は1ページの見開きでホンダ創業者の本田宗一郎氏の考えや言葉をわかりやすく説明している。著者の岩倉氏はかつてホンダのデザイン責任者だった。本田宗一郎といった著名な経営者を同じ会社の人間が本にすることは珍しいのではないか。
特に読んでほしいのは「大学が教えるのは過去のことばかり。それがそのまま職場で役立つと思ったら大間違いだ」という言葉。知識はあっても良いが、知恵を出さなくてはいけない。この本を読んで若手世代もハッと思うことがあるはずだ。

●色川武大著『うらおもて人生録』
テルモ社長・佐藤慎次郎(さとう・しんじろう)氏「要領の良さは捨てろ」

要領の良さが自分の武器だと思う若い人がいたら、いったん捨ててほしい。小ずるい生き方を推薦する人が多い現代だが、本当の戦いをしないと人生は勝ち抜けない。それがこの本の著者が言っていること。
人間の痛みや人生の機微、社会の裏側を知る著者が書いた本音の人生論だ。戦後の混乱期に賭け事で身を立ててきた著者は混濁したグレーな世界を見てきたが、発しているメッセージは非常にピュア。だから心に響く。
マージャンには人生の学びがたくさんある。人間の情がうごめく社会の中で成功したり失敗したり。そこから人生の原理について教えてくれる一冊だ。

●福田健著『人の品格は「話し方」にあらわれる』
文化シヤッター社長・潮崎敏彦(しおざき・としひこ)氏「相手の視点に立ち考える」

コミュニケーション能力の差で人生の豊かさが変わる。沈黙は金ではなく、昔のように背中を見て学べという時代ではない。この本にはコミュニケーション能力を高めるにはどうすべきかが書かれ、話し方よりも聞き方を重視している。話し上手は聞き上手。会社で上司が一方的に部下に話すのではなく部下の話を聞く姿勢が求められる。聞くことで自主性、挑戦性が生まれる。逆に押しつければ自主性がなくなり革新的なこともできなくなる。
人間の品格は、話す際の態度など基本的なことを含んだ上での話し方にあらわれる。相手の視点に立って考え思いやりを持つことが大切だ。

●スチュワート・ラッセル、ピーター・ノーヴィグ著『エージェントアプローチ 人工知能』
MUJIN CTOのデアンコウ・ロセン氏「AI研究の歴史を学べ」

どんな仕事に就いても人工知能(AI)に触れるようになった。バズワードに流されAIですごいことが起きると感じてしまう。だが根拠はなく、そもそも情報が正しいのか判断できないと意思決定はできない。
ここには50年のAI研究の歴史で何が成功し、どこに失敗があったか整理されている。文章はやさしく、小説のように読める。米国では大学の教科書に広く採用され、学部教育はほぼこれだ。
そして、この本でAIのオープンソースが始まった。学生は本にあるプログラムをダウンロードし実際に試して理解を深めた。オープンソースは技術開発の流れを変えた。

●司馬遼太郎著『坂の上の雲』
文部科学相・萩生田光一(はぎうだ・こういち)氏「挑戦する心構えを持て」

物語の舞台となる明治時代は鎖国が終わり、日本の科学技術の創成期と言える時代だった。それまで内向きだった日本人は持っていた高度な技術を基にその後メード・イン・ジャパンで世界との競争に勝ち抜くことになる。
今の時代は情報通信技術(ICT)でボーダーレスの学びができる時代で、新たな科学技術の創成期に入った。日本人のノーベル賞受賞者が続いているが、この先は分からない。優秀な研究人材を見いだすためにも、空振りを恐れず研究者を増やすことが大切だ。
いつの時代も新しい道をひらくのは若者の勇気。多くのことに挑戦する心構えを持ってほしい。

日刊工業新聞2020年1月13日

キーワード

関連する記事はこちら

特集