アジアで異彩を放つインドの経済成長、内需主導を支えるパワーと内政

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10月に講演会講師として浜松市に赴いた。同市は、インドで4割ものシェアを握る圧倒的な存在であるスズキのお膝元で関連企業が集積している。そのため多くの企業が、インドの景気動向に高い関心を持っていた。インドの自動車販売は、1年で最も販売台数の多い時期となる昨年10月のディワリ(ヒンドゥー教の正月)を境に、翌月以降、販売台数の前年同期比マイナスが1年あまり続いている。

自動車販売の不振は、マクロ経済動向とも整合的である。インドの実質国内総生産(GDP)成長率は昨年第2四半期以降、6四半期連続で減速している。その要因は複数あり、今年4―5月に行われた総選挙に伴う設備投資の手控えや、昨年後半から今年前半にかけての干ばつ、昨年8月に最大手ノンバンクのIL&FSが倒産し、オートローン市場などに悪影響を与えたことなどが挙げられる。

総選挙の結果、与党BJP(インド人民党)の続投が決まり、干ばつは過ぎ去り、中央銀行であるインド準備銀行は政策金利の引き下げを重ねている。これらの結果、過度な悲観は徐々に払拭(ふっしょく)され景気は徐々に持ち直す見込みだ。他方、地方ではまだ貸出金利が高止まりしているケースが散見されるようである。人口で日本の約10倍、面積で約9倍の大国であるが故に、全国規模の政策効果浸透には時間を要する面はあるとみられる。

インドは、アジア諸国のなかでは相対的に輸出依存度が低く、内需主導の経済成長に特徴がある。インド国内には、中国に比肩、または中国勢を凌駕(りょうが)するレベルで、フリップカート(電子商取引=EC)、ミューシグマ(人工知能=AI)、ANIテクノロジーズ(配車)などのスタートアップ企業が誕生しており、デジタル技術の普及も、内需の成長を後押しするとみられる。それを支える英語が堪能なシステムエンジニアを豊富に抱える点も強みとなる。

他方で、その経済構造故に、自由貿易推進に対しては時に慎重であることは否めない。11月にバンコクで開催された東アジアサミットにおいて、インドが東アジア地域包括的経済連携(RCEP)から離脱する意向であると伝えられた。RCEPは、日中韓印豪NZと東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国の計16カ国で6年にわたって交渉が行われてきた地域通商協定である。16カ国中、経済規模では中国が突出する。その影響力が過度に増すことを抑制するためには、インドの参画は不可欠と考える国は多い。

しかしながら、モディ首相は、インドに既に大量の中国製品が流入している現状下、RCEPは、それを助長するというインド国内の意見を退けることが難しいようである。メーク・イン・インディア政策を掲げてプロ・ビジネス政策でインドへの外資企業誘致を進めてきた同首相にとって、RCEP離脱となれば、苦渋の決断といえる。景気低迷の今は「内政優先やむなし」との政治判断なのだろう。

インドは、内需主導の成長や世界最大の民主主義など、中国とはさまざまな面で対照的で、アジアで異彩を放つ存在である。腰を据えて付き合っていくべき国といえるだろう。

(文=酒向浩二<みずほ総合研究所アジア調査部上席主任研究員>)

日刊工業新聞2019年12月5日

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