5G時代の主導権争い…通信大手が基礎研究に先行投資
国内通信大手が次世代技術の基礎研究を強化している。NTTは独ミュンヘン工科大学と共同で、ナノサイズの医療用埋め込み型電子機器の開発に乗り出す。ソフトバンクは東京大学と人工知能(AI)研究所を開設する。第5世代通信(5G)などで通信の高速化が進めば、あらゆる人やモノの動きをデータ化し、AIで解析する新サービスが生まれる。そこで主導権を握る先行投資と言えそうだ。(取材=編集委員・水嶋真人)
【体内ナノ電極】
NTTとミュンヘン工科大が開発するのは、生体内の生体信号を長期間、高精度に取得でき、異物反応や拒絶反応などを生じないナノサイズの電極だ。これを体内に埋め込めば患者に負担をかけることなく、体内の生体情報をリアルタイムに可視化。さまざまな病気の予兆を早期発見できるようになる。あらゆる人物の生体情報を蓄積し、AIで解析すれば医療研究の効率化にもつながる
。【高速大容量化】
ソフトバンクと東大の研究所も、革新的に高精度なリアルタイム分析ができる「スーパーAI」の開発に乗り出す。AIによる数学の定理証明や物理法則の発見、AIを応用した最先端医療システムの基礎研究も進める。
NTTやソフトバンクが次世代技術の基礎研究を進める背景には、通信の高速大容量化により、あらゆる人やモノのデータをリアルタイムに送受信してAIで解析する時代が来るからだ。2020年に商用化する5Gは通信速度が4GLTEの最大100倍となり、大容量映像を多数の端末にリアルタイム配信できる。
【IOWN構想】
こうした通信の高速大容量化に備え、NTTはネットワークから端末までを光化し、電気制御の限界を大幅に超える情報処理能力を実現する「IOWN構想」を発表。同構想の技術仕様などを議論する国際フォーラムを20年春に米インテル、ソニーと設立する。ソフトバンクは20年度に本社を移す竹芝新オフィス(東京都港区)で、社会や産業の課題解決にAIを活用する応用研究や事業化も行う。5Gでは米中に後れを取ったが、5G普及後の30年を見据えた“種まき”が本格化してきた。
日刊工業新聞2019年12月11日