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急拡大するロボットSI、人材育成が追いつかない!

インタビュー/SIer協会会長・三明機工社長の久保田和雄氏

ロボットシステムインテグレーター(SI)の事業領域が拡大している。SIは広範な技術を融合させロボットに命を吹き込む仕事だ。技術面では人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などの情報技術の取り込み、事業面ではサービス業などの非製造領域への進出が加速している。領域拡大を支える人材の育成が急務だ。FA・ロボットシステムインテグレータ協会(SIer協会、東京都港区)の久保田和雄会長・三明機工社長に展望を聞いた。(取材・小寺貴之)

ーSI業界は多様な分野から事業者が集まっています。最近ではAIベンチャーも設備を整えてSI事業を始めています。モノづくりやITなど、多様な専門用語が飛び交う業界になりました。SI同士の協業を難しくしていませんか。

「協会として人材育成の講座を開き、能力検定を始める。昨年から基礎講座をはじめ、システムインテグレーションや生産技術、設計などを3日間で教えている。これまで約350人が受講した。業界のレベルが上がるだけでなく、共通言語となる知識や技術の標準化が進むだろう」

「ロボットSI検定は2020年に3級の試験を開始する。入社3年内の若手技術者や営業職にレベルを合わせている。順次2級と1級を立ち上げる。例えば工場にいくと技能検定の合格証書が何枚も飾ってある会社がある。その会社のレベルが一目でわかる。ロボットSI検定は広範な技術を融合させる力をはかる。3級はSIとしてやっていくための運転免許のような位置づけだが、1級は特に難しくする。実践力を重視し、高い専門性を求める」

ー国内ではロボットメーカーとSI、ユーザーがあうんの呼吸で仕事をしてきました。その反面、あうんが通じない海外や異分野開拓に苦労するという副作用もありました。

「講習や検定は海外に広げていく予定だ。日本の業界標準が浸透していると、ロボットや関連製品を普及しやすくなる。規格やノウハウなど、技術のすり合わせに必要な前提知識が共有されていると協業しやすい。まずはタイを考えている。18日に開幕する『国際ロボット展』にタイからSIを招いて日本の技術レベルを見てもらう。そして人材育成や評価について連携を協議する。タイから技術者を送ってもらい、日本でシステムインテグレーションを学び、タイに帰ったら指導的な役割を果たしてもらう。このくらいしないと日本の標準が広がらないだろう」

「もともとタイはドイツ色が強かった。職業訓練校『タイジャーマンインスティチュート』(TGI)からドイツが資本を引き上げることになり、三明機工とロボットアカデミーを立ち上げた。もう何百人も卒業生を出している。タイには日本が入り込んでいて、業界標準を広めやすい」

ーAIやIoTなど新しい技術分野への対応は。

「IoT・AI分科会を設けて事例を交換している。第5世代通信(5G)の実用化でIoTが進むと考えている。伝送速度が現行のLTEの100倍になる。無線で膨大なデータを送れるようになる。例えばロボットがレーザーで計測する点群データを丸ごと送ってクラウドで処理することも可能だ。工作機械やロボット、大量のセンサーのデータを5Gで送れば、配線や敷設の問題を気にしなくてすむ。これまでIoTは一部の大企業に限られていたが、中小企業にも広がりポピュラーなものになる」

「産業用ロボットは5GでAGV(無人搬送車)との複合システムが増えるだろう。課題はスペースと安全性だ。自動車部品の鋳物工場でAGVを利用する例はあった。ただ中小の工場はスペースがなく、所狭しに装置や資材が置いてある。作業者もロボットと同じ通路を歩くことを考える必要がある。そこでコンパクトなAGVと、安全面から人協調ロボを組み合わせた、移動し作業するロボットが今後増えるだろう。安全性についてもユーザーとSIでアセスメントし、残留リスクを明確化して運用に落とし込む必要がある」

ー移動するたびに位置決めをやり直す必要があります。いい3Dカメラは200万円くらいするのでは。

「手先に載る距離カメラで数万円台の製品が出ている。距離を測れる範囲が広くなったため、精度の要らない作業には十分だろう。5GとIoTが20年の後半に伸びるため、SIにとっては20年の前半が勝負になる。データを集めて処理するクラウドの比重が重くなり、情報系の技術者は奪い合いになるだろう」

ー幅広い分野から優秀な人材を惹きつける必要がありますね。

「協会として『ロボットアイデア甲子園』を開いている。工業高校や高専などから産業用ロボットの新しい使い方を募った。アイデアを出す前にロボットシステムを見学し、知識を身につけてもらう。一部の高専ではSIを授業にとりいれることになった。SIという職業観を広げたい。またアイデア甲子園は学生の自由な発想が提案される。印象的だったのは、電柱にカメラを付けてロボットで交通整理をしようという提案だ。要素技術はそろっており、技術的には実現可能だ。目の前の顧客だけをみていては出てこないアイデアだ。内心、反省させられた。我々は常識にとらわれ、安易に無理だと断じてしまう。これが視野を狭めている」

「一方、日本は幅広い分野でロボットが必要とされている。一人あたりの生産性を向上させないと、少子高齢化で国内総生産(GDP)が小さくなってしまう。すでに一人あたりの生産性は名目GDPで26位と決して高くない。このまま人口が減るとどうなるだろうか。SIは幅広い分野に入り込み、競争力を高めることが求められている。SIは夢のある職業と発信していきたい」

SIer協会会長・三明機工社長の久保田和雄氏
日刊工業新聞2019年12月6日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
ロボットSIは扱う技術領域が広く、すり合わせの要素が随所にある。技術がまねされにくいと同時に客観的な評価もされにくかった。ロボットは不具合なく動いて当たり前で、その技術力は問題が起きたときに減点方式で評価される。幸か不幸か、潜在的に競争力のある産業だ。SIで育つ若手はタフなエンジニアになるだろう。

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