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ドローン普及、カギは「大脳」が握る

先端ロボティクス財団理事長・野波健蔵さんが語る

重力に逆らって空を飛行する鳥や昆虫といった生物はもちろんのこと、有人航空機や無人航空機(UAV)など、人が創造した人工物は翼で自重を支えており、翼が発生する持ち上げる力、いわゆる揚力は全く同じ飛行原理に従っている。一方、生物と人工物で決定的に違う点が二つある。それはエネルギー効率と環境認識能力や判断力である。ここでは後者について、鳥のように飛行する近未来型・飛行ロボットはどのように進化するかについて論じたい。

明確な定義はないが、オートパイロット(AP)とはドローンが初歩的なウェイポイント飛行などのプログラム飛行から、高度に自律化された飛行、例えば障害物を回避し自ら軌道計画を実時間で実行しながら飛行できるガイダンス(誘導=G)、ナビゲーション(航法=N)、コントロール(制御=C)のハードウエアとソフトウエアの一体システムのことである。

先端ロボティクス財団理事長・野波健蔵

飛行前方の障害物を瞬時に認識して衝突回避を自律的に行い、飛行経路を自ら生成しながら自律飛行するためには、G、N、Cが重要な役割を果たす。このGNCの3要素は完全自律制御飛行のためのコア技術であり、自律飛行における頭脳部として今後急速に進化を遂げていくものと思われる。特に、物流ドローンや災害対応ドローンに見られるように自律制御飛行のレベルが高度化して目視外飛行かつ長距離飛行となると、GNCが決定的な飛行性能を決める。

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UAVにおけるGは人間に例えると“大脳”の役割に似て、複雑な未知環境においても障害物を検出し衝突を回避しながら目標軌道をリアルタイムに決めて自律飛行する、いわゆる実時間経路生成を実行する。もし機体に異常が発生した場合は飛行継続が可能かどうかを判断し、困難であれば安全な場所を探索しながら地上に帰還するというミッションも含まれるため、高度で瞬時の判断を伴う上級レベルの自律飛行に該当する。

学習しながら獲得していく知能・認識機能で、深層学習の人工知能(AI)の進化が著しい。有人航空機ではパイロットが担う高度な技術であるが、UAVでは全てコンピューターが逐次変化する3次元空間を認識して飛行経路と高度などを瞬時に決定していく必要がある。このような視点に立てば、現状のUAVはGが全くないか、ほぼないに等しい状態で飛行しており、平衡感覚や運動機能のみが優れたNとCの小脳型飛行である。近未来型・飛行ロボットにAIなどを駆使した大脳型機能を付加することは第三者上空飛行における最も重要な技術的課題と言える(図参照)。

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エッジコンピューターの機能が不十分な間はネットワーク化が不可欠で、携帯電話網を活用したLTE通信や第5世代通信(5G)などを利用して、クラウドコンピューターによる支援を受けて飛行することになる。風が強すぎる場合や、体調が悪ければ飛行しない鳥と同様に、異常があれば離陸しない、離陸した後は余力のある間に高度を下げて不時着する安全な場所を探して着陸する。墜落という事態は完全に回避される。

このようなG機能を有した大脳型・飛行ロボットの登場で、2020年代半ば以降には都市部上空を数百機、数千機のドローンが飛び交う時代が到来するであろう。

【略歴】のなみ・けんぞう 東京都立大(現首都大学東京)院修了。米航空宇宙局(NASA)研究員などを経て94年千葉大学教授。ドローン研究の第一人者で、18年には創業した自律制御システム研究所を東証マザーズに上場させた。70歳。

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