開催まで1年の「COP15」予想される国家間の駆け引き
生物を守る新しい世界目標を決める国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)開催まで1年を切った。動植物の減少を食い止めるために経済や社会構造の大胆な変革を迫る国際世論があり、COP15では激しい議論が予想される。開催地は中国雲南省昆明市であり、中国政府の思惑も複雑に絡んでいきそうだ。
ポスト愛知目標・各国戦略に直結
現状の世界目標「愛知目標」は、2010年に名古屋市で開かれたCOP10で決まった。「自然生息地の損失速度を半減し、ゼロに近づける」など20の個別目標を定めたが、期限の20年までにほとんどが未達となりそうだ。20年10月のCOP15は“ポスト愛知目標”を採択する。同2月の会合で国際交渉は本格化するが、議論の方向性が見えてきた。
世界の科学者が参加する「生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学―政策プラットフォーム(IPBES)」は5月、初となる地球規模の報告書を公表した。それによると100万種が絶滅の危機に直面し、大気質や災害の調整、医薬品への利用といった「自然がもたらすもの」が減少傾向にあるとした。
対策として「transformative change(革命的な変化)」の必要性を指摘。大胆な変革を求めるこの言葉が、新目標のキーワードとなる。8月に来日したアナ・マリア・ヘルナンデスIPBES議長も「経済のあり方を変えないといけない」と忠告した。
COP15は変革の具体的な中身を決める場であり、国家間の駆け引きが予想される。欧州などは生態系を保全しながら自国産業を有位にする交渉術にたけている。環境省の担当者は、中国が自国の環境政策「生態文明」を国際社会と共有し、海外での開発プロジェクト推進に結びつける可能性を指摘する。COP15は今後の企業活動を左右しそうだが、日本での関心は薄い。
企業評価につながる取り組み、活動強化・情報発信カギ
地球環境戦略研究機関主催の生物多様性セミナーが5日、都内で開かれ、企業が取り組みを発表した。富士ゼロックスは自然資源の消費を金額化する手法を使った事例を紹介。適切に管理された森林からコピー用紙原料を調達することで最大7億ドルの社会的損失を防いだと見積もった。
大日本印刷は本社のある東京・市ケ谷で整備中の緑地を紹介した。地域固有種を植えており、都心に「武蔵野の森」を復活させる。聴講者から「土地を売却した方が、経営メリットになるのでは」と質問が出た。同社環境・CSR部の鈴木由香リーダーは「経営トップの強い思いがあり、地域に求められる緑地にすることになった」と経緯を説明した。
他にも生物多様性保全と企業価値の関係性を問う質問があり、名古屋大学の香坂玲教授は「社会へのインパクトやステークホルダーの巻き込みが大事」と助言した。ESG(環境・社会・企業統治)投資や持続可能な開発目標(SDGs)の流れがあり、本来なら生物多様性保全は企業評価につながるはずだ。日本企業は“ポスト愛知目標”をにらんだ活動強化や、正当に評価される情報発信が欠かせない。