教員養成×起業支援や芸術学×IT…「珍しい産学連携」花開く

合理性の壁壊す成果生む

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「3D綱引き」中央の玉を弾ませて得点を稼ぐためにジャンプする人も
 教員養成大学と起業家支援企業、芸術学系とIT企業の研究所など、珍しい形の産学連携が生まれている。この“特異点”ともいえる連携から、工学系とメーカーの産学連携とは違う協働の仕方や成果が生まれている。産学連携モデルとして一般化し、水平展開するのは難しいが、手探り状態から始まった連携が花開きつつある。(取材・小寺貴之)

新スポーツ、作って学ぶ


「ウォーン」。「ウォーン、ウォーン」と、“ヒトの遠吠え”から始まる運動会がある。メディアアーティストや体育の先生などが集まる運動会協会(横浜市都筑区)が開く「未来の運動会」では毎回新しいスポーツを開発する。開発した競技は運動会を開いて、体を動かし楽しむ。

 9月に開いたスポーツ共創人材の育成合宿では、十字綱を使った「3D綱引き」やロープから大玉を蹴ってコーンを倒す「ターザンボーリング」など4種目が開発された。3D綱引きは十字綱の中心から玉を垂らし、地面に描いた八つの円に玉を入れると得点になる。赤と白のチームが対角の綱を引きながら、十字綱の中心を自らの円に入れようと動き回る。通常の綱引きは力と力が拮抗(きっこう)する静的な種目だが、3D綱引きは拮抗を崩しあう駆け引きがあり、プレーヤーが動き回る動的な種目になった。

 ターザンボーリングは登り綱につかまり、大きくスイングして大玉を蹴る。小学生男子が喜ぶ種目だ。大玉でコーンを倒した数を競うボーリングの要素を加え、パワー勝負に陥らない工夫をした。こうした新競技のアイデア出しから試行、検証、社会実装までを数日間で実践できる。今後は大阪市など全国5カ所で開かれる予定だ。運動会協会の犬飼博士理事は「スポーツ共創は社会課題をみなで解決しようする活動の練習になる」と説明する。実際に小学校の学びに取り入れられた。



誰でも楽しめるドッジボール


 横浜市立白幡小学校では昼休み時間を延長してクラス全員で遊ぶ「プレイタイム」を実施している。この遊びの内容を子どもたちが考え、新しいドッジボールを開発した。玉置哲也主幹教諭は「ドッジボールは人気種目だが楽しめない子もいる。理由を整理し、みなが楽しめるアイデアを出して、試して、みなでやってみた」と振り返る。

 ボールが痛いという課題には、ボールの代わりに風船を使うアイデアが出た。ただ風船は投げても飛ばない。このグループは風船の中に詰める材料を試行錯誤し、消しゴムのカスにたどり着いた。粉体流動性や比重が最適でボールのように投げられる。他にもクイズを組み合わせて復活チャンスを設けたり、伝承遊びの「石木鬼」と組み合わせたりと、さまざまなドッジボールが開発された。

 何かを作って共有する共創の経験はハッカソン(技術開発コンテスト)に通じる。子どもたちの進路はそれぞれだが、技術系に進めばハッカソンやロボコン、経営系に進めばビジネスプランコンテストなどがある。これらの原体験として運動会やスポーツの共創は、みなが参加でき気軽に試せる利点がある。玉置教諭は「失敗も楽しみながら、暮らしのルールや社会を変えていくマインドを養える」と手応えは大きい。
横浜市立白幡小のドッチボール開発の一コマ(同校提供)

大学運営変わる 報告はチャットで確認、会議はアイデア出しの場


 東京学芸大学は起業家アクセラレーターのMistletoe Japan(ミスルトウジャパン、金沢市)と新しい形の学びや遊びを探求する「エクスプレイグラウンド」を運営する。居心地研究や仮想現実(VR)の教育応用などのプロジェクトが進む。

 東京学芸大の金子嘉宏教授は「最も大きく変わったのは大学の事務方」と指摘する。日頃からコミュニケーションツールとしてビジネスチャットを使い、会議では報告はしない。報告は集まる前にチャットで確認し、会議はアイデア出しと意思決定にあてる。金子教授は「以前は電話帳のような書類を持ち寄っていたが、いまはパソコン一つ。ベンチャーのようになってきた」と振り返る。

 エクスプレイグラウンドでは基金を設け、各プロジェクトが必要な額を申請して使う仕組みだ。提案に対して3日間反対がなければ、申請額を自由に使える。金子教授は「大学の教員はこんな予算の使い方は初めてで、おっかなびっくり」と明かす。アクセラレーターと組んだことで大学運営が変わりつつある。

「面白い」こと最優先


 「多くの産学連携では自社製品やサービスの良さの証明を暗に期待される。これは大学にはできない。面白いことをやろうという姿勢が産学連携を面白くする」―。筑波大学の山中敏正教授は楽天技術研究所とのプロジェクトとこう振り返る。楽天技研は次世代店舗や新しい購買体験の創作を筑波大芸術系の研究者と進めている。

 技術者は課題を構成要素に分解し、要素技術を組み上げる用に解決策を作る。対して芸術系のデザイナーは、その枠を飛び越えるコンセプトを練る。その多くは実際に作るのが大変だが、ポンチ絵1枚であっても楽天技研の技術者が形にする。山中教授は「コンセプトが具現化されるのはデザイナーには大きなメリット。試作品を元にさらに開発サイクルを回せる」と話す。
筑波大学生考案のお尻ランプ(楽天提供)
 共同研究だけでなく学生の実習とも連携する。「てらす」と「お風呂」をテーマとしたデザイン演習では、「罪」と描かれた入浴剤やお尻を光らせる風呂いすが考案された。楽天技研の益子宗シニアマネージャー(筑波大教授)は「教員としては言葉に詰まるが、お風呂グッズ屋さんからはすぐに製品化してくれと急かされる」と苦笑いする。

 従来の産学連携は企業の課題に対して大学の技術で応えられれば連携が成立し、費用対効果が合えば社会実装されるという、比較的シンプルな意思決定がなされてきた。だが特異点での連携からは何が生まれるかわからない。通常の合理性の延長線上にはない成果が期待される。

日刊工業新聞2019年10月14日

COMMENT

小寺貴之
編集局中小企業部
記者

スポーツを再開発する子どもたちや、お尻を光らせる風呂イスは、その価値を計れないです。「罪」な入浴剤は湯に沈めると自分の罪が溶けて消えていきます。風呂イスは座るとお尻を検出して、お尻を下から照らします。夜の露天風呂で光るお尻が並ぶ様子は壮観だと思います。いずれもウォシュレットのように日本の文化・風俗を発信する逸品になるかもしれません。なんで、こんな連携が成り立っているのかわからない部分はありますが、非合理の中にしかないブレイクスルーは確かに存在します。非合理を見つけたら、そこには面白い変なモノが眠っているかもしれません。大切に育むと大化けするはずです

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