“保育スマート化”加速も、問われる信頼・信用・協調

ベンチャー、幼保無償化も好機に

 保育施設のIT化をスタートアップが加速させている。10月からの幼児教育・保育の無償化を機に施設の収入が増えるとIT投資のチャンスだ。人の手で支えてきた現場をテクノロジーで効率化し情報を蓄積する。課題はベンダーが施設のIT化を丸ごと請け囲い込もうとしている点だ。ヘルスケアや教育などの連携先はプラットフォームが乱立することは望まない。先も見据えて戦略を描く必要がある。

サービス統合


 「保育は教育やヘルスケアのデータをためる最初の現場になる」とソフトバンク系のhugmo(ハグモー、東京都港区)の湯浅重数社長は指摘する。スマート検温サービスを始める。スマート体温計に加え、お昼寝中の見守り体動センサーや連絡帳アプリ、写真アルバムアプリ、送迎バス管理アプリなどのサービスを展開する。

 保育施設にとっては見守りや検温などのデータが連絡帳に統合され、保護者と情報をシェアできる。バラバラにサービスを導入するよりも、サービス間の接続性が高く便利だ。スマート体温計は1年間で600施設、3000台の導入目指す。

 ユニファ(名古屋市中区)もサービス統合を進める。INCJ(旧産業革新機構)などから約35億円の資金を調達し、フレーベル館(東京都文京区)から保育ICTサービス事業を買収した。同社のスマート体温計やお昼寝見守りセンサーと、買収した連絡帳サービスを統合し、保育施設を丸ごとIT化する。保育データとヘルスケアの協業を見据えてエムスリーからの出資を受けた。2―3年で1万5000施設への導入を目指す。

 IT化の効果は保育士のストレス軽減や離職予防に現れている。保育施設では乳児の突然死を防ぐため、睡眠中は5分おきに乳児一人ひとりを確認することが求められている。保育士はノートをつけ、お昼を食べながらチェックする。人手が足りない中で作業が寸断され、見逃しには命がかかる。大きなストレスになっていた。

 そこでセンサーで睡眠中の姿勢を計り記録表に自動入力する。ユニファの土岐泰之社長は「センサーの導入施設では離職率が16%から6%に下がった」と振り返る。ハグモーの湯浅社長も「今後はIT化していない施設は若い保育士が集まらなくなる」と指摘する。

データ活用


 ただ現場がストレスにさらされる状況で作業を自動化すると、確認が形骸化するリスクもはらむ。大企業が参入してこなかった要因の一つだ。ユニファへの投資をまとめたINCJの丹下智広マネージングディレクターは「過度な営業トークはないか、業界として担保していく必要がある」と指摘する。導入や保育士交代の際には丁寧な説明が必要だ。ここで獲得した信頼が施設の丸ごとIT化を託す信用力になる。

 保育施設内で体温などの生体データと保育士が観察する体調や成長などのデータが子ども一人ひとりにひも付いて整理されるとデータ活用の幅が広がる。一方で教育やヘルスケアなどとの連携は事業者ごとに戦略を描く。湯浅社長は「プラットフォームが乱立すれば市場再編が必要になる」という。シェア争いが過熱する前に、協調も考える必要がある。

日刊工業新聞2019年10月17日

小寺 貴之

小寺 貴之
10月20日
この記事のファシリテーター

「命を見守るセンサー」「AIが判断」「医療機器」「●●先生のお墨付き」が営業トークになりえます。そもそも5分おきのお昼寝チェックは、確認結果を記入した矢印表を求めているのではなく、ちゃんと呼吸しているか確認する行為を求めています。センサーに確認をゆだねて、矢印表の作成が目的化してしまうと、それはリスクになり得ます。一般に強いストレスを抱えている現場に半自動化システムを入れると、人がシステムにゆだねてしまうことがあります。何か事故が起こると、賠償できる組織を訴えることが模索され、事前に説明や契約、同意があったとしても、子どもの命に対しての責任をシステム提供元が問われる可能性があります。これは自動運転車両のレベル3にも通じる課題です。こうしたリスクを回避しつつ、補償する仕組みがあった方がいいと思います。
保育士さんは若い人が多く、スマート機器の取り扱いにはたけていているそうです。それでもセンサーや判定原理、自動化の限界や注意点は念入りに周知した方がいいと思います。業界として丁寧に製品を立ち上げれば、人手不足に悩む保育施設にとっては救いの手になるはずです。現状は何か事故が起きたときの責任を保育士さんに負わせているともいえ、健全とはいえないのだろうと思います。

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