AIビジネス、人の感性や思考の領域へ

 これまでAI(人工知能)ベンダーによる業種の絞込み、ソフトウエアとハードウエアの融合といったトレンドについて触れてきた。これらは基本的には文字・画像のような物理的に把握可能な現象を対象としてディープラーニングを活用している。一方で、これまでの技術では実現が困難であった人間の感性・思考などを分析するという取り組みも始められている。

 例えば、VISITS Technologiesは、人々の創造力・アイデアの定量化を行うコンセンサス・インテリジェンス(CI)を開発、AIと組み合わせることで企業のビジネスの高付加価値化・効率化を実現している。

 またガラパゴスは、これまで人間が感性をベースに作成していたロゴなどのデザインをディープラーニングで作成している。アイデアの価値・デザインの美的感覚などは人間ですら明確な評価基準を有していないことから、AIの精度が高まれば天才しか創り出せなかった商品・サービスを高速かつ大量に提供できるようになる可能性がある。

 そのほかの事例として、人間と同様に言葉の論理的意味を理解できるAIの開発が見られる。

 現在のAI技術では文章を一定レベル以上に理解するのは困難であり、そうしたAIを実現するには技術・開発アプローチにおけるブレークスルーが必要である。この分野の取り組み事例として、GoogleのBERT(自然言語処理モデル)、pluszeroのAEI(アーティフィシャル・エラスティック・インテリジェンス)などが挙げられる。

 また、脳だけでなく肉体を含め人間の一部または全体をAIで代替する試みが行われている。

 人間の行動を再現するためには、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚等複数の異なるデータを蓄積・分析・統合(マルチモーダル学習)するという高度な技術、人間の複雑な動きを実現するハードウエアなどが必要になる。現状のAIレベルを見る限りでは、人間を模した実用的なサービスが登場するには長い時間が掛かると想定される。

 それゆえにディープラーニングが登場した当時話題になった、2045年にAIがシンギュラリティー(技術的特異点)に到達するという「2045年問題」についても、乗り越えるべき技術的課題が非常に多く、短期的には実現されないと思われる(本稿では、シンギュラリティーを「AIが自身を少し改良したAIを創造することができれば、その行動を繰り返すことによって人間の脳を超えたレベルに進化すること」と定義する)。

 AIは今後も有用な技術として開発・活用が進むと思われる。引き続き、AI市場の動向に対する注視を続けていきたい。
(文=窪田正吾<日興証券第二公開引受部IPOアナリスト課>)

日刊工業新聞2019年10月16日

  

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